SCは、若い人材の育成にも熱心で、学生のベストペーパーや学生や若い研究員が中心となる発表が多いベストポスターなどの表彰を行っている。SC12の表彰式では、筑波大学の石山氏らのGordon Bell賞の受賞に続いて、ベストポスターで表彰されたのも日本人のチームであった。
また、学部学生の研究コンペティションでは、イェール大学のTeramotoさんがGold Medalを獲得し、日本人の活躍が目立った表彰式であった。
本題の「Student Cluster Competition(SCC)」であるが、学部学生、あるいは高校生6人のチームがクラスタを構築し、LINPACKと、今年はLAMMPS、QMCPACK、CAM、PFLOTRANという4つの科学技術計算アプリをぶっつけ本番で出される入力データで実行し、性能などを競うというものである。5月頃の応募から11月のSC本番までの6カ月で、学生たちはクラスタの構築から、クラスタでの並列実行のためのチューニングなどを実地に学ぶことになり、教育効果は高いと思われる。
使用する機器は何を使っても良く、クラスタ全体の消費電力を120V商用電源から26A以内でまかなうことと、機器を自分たちで調達することである。もちろん、学生たちが購入できるわけはないので、機器の貸与とSC会場までの旅費や宿泊費を出してくれるスポンサーを見つけることになる。
今年のSCCで昨年までと変わったのは、昨年までの26A制限の競技は「Standard Track」と呼ばれるようになり、これに加えてAtomベースのワンボードコンピュータ6台でクラスタを作る「Pilot Track」という競技が設けられたことである。
Standard Trackの出場校は以下のとおりで、( )内はスポンサー企業名である。
- Massachusetts Green High Performance Computer Center、United States (Silicon Mechanics)
- National Tsing Hua University、Taiwan (Acer)
- National University of Defense Technology, China (Inspur)
- Purdue University, United States (Intel)
- Texas Tech University、United States (Dell & HPC Center at Texas Tech University)
- University of Science and Technology of China (Dawning)
- University of Texas at Austin, United States (Dell)
- The University of Pacific, United States (Appro)
と8校である。一昨年、昨年と2連勝の台湾の国立清華大学が今年も勝利し、連勝を3に伸ばすのか、他のチームが連勝を阻むのかが興味深い戦いである。
一方、新設のPilot Trackであるが、クラスタの教育を目的とするLittle Feというアクティビティがあり、この団体が規定するLittle Fe V4というシステムは、Jetwayの「NC98-525」というマザーボードを6枚使用し、これらのワンボードコンピュータをASUSの「GX-D1081 Gigabit Network Switch」で接続してクラスタを作るというもの。
NC98-525ボードは1.8GHzクロックのデュアルコアAtomプロセサとNVIDIAのION2グラフィックスチップを搭載しており、Standard Trackのチームが使うサーバに比べると性能は低いがION2 GPUをCUDAプログラムを書いて計算に使うこともでき、高性能を得るためのチューニングという点では奥が深い。Pilot Trackの出場校は、
- CUNY College Staten Island, NY
- Skyline High School、Salt Lake, UT
- Slippery Rock University, PA
- University of Utah, UT
の米国の4校である。SCCのルールとしては高校生でも良いのであるが、高校生のチームが実際に出場したのは、今回のSkyline High Schoolが初めてである。
準備期間中は先生などがコーチに付くが、競技中の技術的な助言などは禁じられており、2日間の徹夜の競技は6人の学生だけで戦う。なお、チームは6名であるが、徹夜でチューニング作業を行うので、通常、ブースに居るメンバーは2~3人で、他のメンバーは交替で休んでいることが多い。
Top500 BoFの中で、SCCのStandard Track各校のシステム構成が発表された。ただし、何故かTexas Tech University(テキサス工科大)がリストに含まれていない。また、スポンザー企業名も表彰式で発表されたチーム一覧とは、若干異なっている部分がある。
これを見ると、CPUは大部分がIntel Xeonで、Massachusetts GHPCCだけがAMDのAbu Dhabi(開発コード名。Opteron 6300)を使っている。システム構成は6~10ノードで、12~20ソケットという規模になっている。そして、NVIDIAのGPUを搭載するチームが7校中5校となっている。昨年は8校中4校であったので、GPUを採用するチームが増えていると言える。また、インタコネクトは全チームがFDRのInfiniBandを使っている。OSはすべてLinux系でWindows HPC Serverを使ったチームは無い。
昨年、テキサス大はGreen Revolution Coolingのオイルじゃぶ漬けの冷却装置を持ち込んで、冷却効率を上げていたが、今年は普通のDellのサーバを使っていた。
Pilot Trackの参加は4校で、そのうちのSkyline HighとUniversity of Utahの2校が地元Salt Lake Cityからの参加である。こちらは、使用するハードウェアは6枚のAtomマザーボードを搭載したシャシーとEthernetスイッチで構成され、Skyline Highのブースの写真では、机の上に載っている。
競技の結果、Standard TrackのLINPACKでは、中国の国防科技大が3.014TFlopsを出し、トップとなった。国防科技大は昨年は2位であったが、今回は1位に輝いた。
ちなみに総合優勝は、テキサス大Austin校で、台湾の国立清華大の3連覇を阻んだ。 テキサス大は毎年優勝候補と言われながらも優勝を逃し続けてきたが、ようやく今回、その栄冠を掴んだ格好である。また、今回から設けられたPilot Trackでは地元のUniversity of Utahが優勝した。