2013年1月25日、都内にて無料電子雑誌「Creative Now」主催のセミナー「3DCGとメカニックイラストレーション」が開催される。Creative Nowのセミナーでは、クリエイティブに興味のある人たちに向けて、毎回トップクリエイターたちが自身の制作テクニックや制作ワークフローなどを紹介している。

今回のセミナー講師は、3DCGを駆使したメカニックイラストレーションを得意とするRey.Hori氏。本稿では、クリエイター Rey.Hori氏の実像に迫る。

Rey.Hori

本名 堀内営。イラストレーター。1963年、大阪生まれ。神奈川県川崎市在住。1985年、鳥取大学工学部生産機械工学科を卒業、富士通株式会社に入社。大型ページプリンターの機構設計開発に従事の傍ら、個人としてNIFTY SERVEグラフィック・フォーラム及びディジタル・イメージに参加、作品制作。1997年8月より、フリーランスとして3DCGやFlashオーサリング/スクリプティングを中心に制作活動中。 機械系イラストを中心に手がけるが、最近は現在計画中の衝突型粒子加速器「国際リニアコライダー(ILC)」をはじめとする加速器関連イラストを高エネルギー加速器研究機構の監修の下で多数描いている。 


3DCGを駆使して精密なメカニックイラストを描くクリエイター

――イラストレーターとして活躍されているRey.Horiさんですが、どれぐらいのキャリアをお持ちなのでしょうか。

Rey.Hori氏(以下同)「イラストレーターとして独立してからは、今年で16年ですね」

――イラストレーターになる前は、どのようなお仕事をされていたのでしょうか。

「1985年に鳥取大学生産機械工学科を卒業して、機構設計エンジニアとしてプリンターの設計を富士通で12年間していました。プリンターといっても、家電量販店で販売されているものではなく、銀行の電算室で動いているような超大型レーザープリンターです。当時この様な製品設計は、機構=メカ、電気=エレキ、制御系、印刷プロセスと4つのチームで行っていたのですが、私はメカの部分の設計を担当していました」

――3DCGはいつ、どのように学ばれたのでしょうか。

「完全に独学ですね。学生時代からCGに興味があって、個人的な趣味としてやっていました。1992年に初めてMacを購入して本格的にCGでイラストを描き始め、1995年にプロデビューしました。1997年に退職して、イラストレーターとして独立しました」

Rey.Hori氏が描いたスマートフォン内部で使用されている電子部品のイラスト

――機構設計とイラストでは、まったく別の仕事という印象があります。

「その通りです。でも、機構設計でCADを使っていたので、3DCGのモデリングに関しては近い感覚もありました」

――イラストレーターとしては、どのようなお仕事をされているのでしょうか。

「私は、3DCG以外での作画はほとんどやっていません。中身は機械系ばかりで、キャラクター物などは描きません。一番多い仕事は、メーカーの製品や想像上のハードウェア的なものを描くことですね。よくあるオーダーは、『どこのメーカーのものでもないが、実在しても不思議でない製品を描いてくれ』というようなものです。例えば、スマートフォンの場合、『iPhoneでないがiPhoneのようなものを描いてくれ』というような依頼です。イメージとして、最大公約数的なものを求められる場合もあれば、先鋭的なデザインを求められる場合もあります」

――キャラクターを描かない理由はあるのでしょうか。

「単純に"描けないから"です(笑)。キャラクターとは関係ありませんが、メーカーで設計をやっていたせいもあって、作れない形や有り得ない形をイラストで描くのは多少抵抗があります。例えば架空のメカイラストでも、機構的・構造的に自分の中で辻褄を合わせて描くことが多いです」

――最近は、どのようなお仕事が多いのでしょうか。

「茨城県のつくば市にある大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構(以下、KEK)に関連した仕事が多いですね。KEKで研究開発している粒子加速器、その施設の完成予想図や構造イラストなどの依頼を受けています」

(c)Rey.Hori/高エネルギー加速器研究機構

――専門の学者や研究者の頭の中にあるものを、CGで具現化するといった感じでしょうか。

「そういった場合もあります。ただ、これから作る施設や機器に関しても、スケールダウンしたものや、現実に類似したものが存在する場合は、リファレンスとして見せていただいてから描くことはあります。加速器が通常の工業製品と違うのは、コストや量産性より、まずは性能を出すことが第一だということ。そのため、見慣れた“製品”とはあちこち違う形をしています。この仕事には、そういった非日常の物を描く楽しみがあります。日本どころか、世界のどこにも存在しない数十年後に完成するであろう施設の精密なイラストを描くということもあります」

――このお仕事をされる前から加速器などに関する知識はあったのでしょうか。

「ほとんどなかったので、多少は勉強しました。「国際リニアコライダー(ILC)」という計画のイラストが最初だったのですが、初めて依頼を受けた2004年当時は、施設の設計も進んでいなかったので、イラストもあまり精密なものではありませんでした。後々のご依頼に沿って絵の精度を上げていくためには、どういう構造で、どう動くのかを理解しなければならないので、研究者の方々にはかなり話を聞きましたね」

――そのようなイラストレーションで、最も重視されるのはどのような部分なのでしょうか。

「あくまでも研究用の装置の絵であり、研究発表に使われることもあるため、正確さが何よりも重視されますが、装置の目的や構造を、行政や関連企業、一般の方に理解していただけるように描くことも大切です」

――イラストレーターとして、そのようなお仕事を手がけることで、どのようなスキルアップが実感できましたか。

「例えば、ILCは8年に渡って描き続けていますので、設計が進むにしたがって、絵の精密さも増していきます。必然的にデータが重くなってしまいがちなのですが、モデリングデータをなるべく重くせずに、精密で複雑なものに見せるというスキルは上がっていると思います」

――今回のセミナーでは、「Shade 13」を使った制作テクニックも見せていただけるそうですね。

「『Shade』で私が使っているテクニックは基本的なものばかりなのですが、その中で皆さんの制作にとってのヒントをお見せできれば嬉しいですね。何が何でも3DCGツールを使用するというわけではなく、『Photoshop』などのツールをうまく併用することで、作業時間を短縮する方法もあるので、そういった部分を解説したいと考えています」

――セミナーでは、どのような事を一番伝えたいですか。

「イラストレーターといっても、私は美大を出たわけでもないし、デザイン事務所にいたこともありません。つまり体系立てて絵の勉強をしたことはないのですが、3DCGツールと出会ったことで、イラストを描けるようになりました。例えば、デッサンは『物の形を把握する』ことと、『紙に描く』ことが一体になったものです。私には紙の上に描く技術はありませんが、『物の形を把握する』ほうは、デッサンの修練ではなく、メカの設計という仕事で身に付けました。デッサンの経験がなくとも、図面的な捉え方で形を把握しようとしているのです。そして『描く』ほうは3DCGソフトにやらせているわけです。そんな奴がどうやってこの仕事をしているか、をお見せできればと思います。また、3DCGを画材として考えると、モデリングという仕込みに時間はかかりますが、それがレンダリングされて絵として完成する瞬間の喜びは、格別のものがあります。そのような喜びや3DCGの利点をセミナーで伝えられたらと考えています」

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