思春期に受けた心理的ストレスは、成長後のうつ病などの精神疾患の発症に関わるとされている。これに関連して名城大学大学院の鍋島俊隆特任教授や名古屋大学大学院の尾崎紀夫教授、米ジョンズ・ホプキンス大学などの研究チームは、ストレスホルモンの上昇が脳内の神経系に影響を及ぼし、精神疾患を発症させる仕組みをマウスの実験で明らかにした。
研究チームは、精神疾患の発症要因となる遺伝子(DISC1)を持ったマウスについて、ヒトの思春期にあたる時期 (5-8週齢) に集団から隔離して飼育するというストレスを与え、行動学的、神経化学的変化を観察した。その結果、成熟後に、刺激に対する反応性や情動性、注意力などの障害、さらに神経伝達物質ドーパミンに作動する神経系に異常が見られた。
特に、意思決定や注意力に関係する中脳皮質系の神経では、ドーパミンを産生する酵素遺伝子が、DNA塩基配列の変化がないままに、酵素の発現量が減少していた。幻覚・妄想症状に関係する中脳辺縁系の神経は、刺激を受けると細胞外のドーパミン量が増えた。
こうした異常は、隔離飼育後に通常の集団飼育に変えても、マウスの成体期にあたる20週齢まで持続した。この間、血中のストレスホルモン「コルチコステロン」の量が増加しており、コルチコステロンの受容体(受け手) を働かなくする拮抗薬「RU38486」によって神経化学的な異常や行動障害は正常化した。遺伝的要因を持っていても、集団飼育したマウスでは、成熟後に行動障害は見られなかったという。
今回の研究は、生まれ持った遺伝要因と成長期の環境要因との相互関係が、成長後にどのように影響を与えるかを明らかにしたもので、精神疾患の発症予防の研究、ストレスホルモンの過剰な働きを抑える治療薬の開発などにつながることが期待される。研究論文は18日付の米科学誌「サイエンス」に掲載された。
なお研究は、文部科学省・学術フロンティア推進事業(2007-11年度)、および「脳科学研究戦略推進プログラム」(脳プロ)の一環として行われた。
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