北海道大学(北大)は1月18日、上咽頭がんの患者を対象に、分解能の高い半導体PETを用いて「FMISO(フルオロミソニダゾール)-PET(ポジトロン断層法)」検査を行い、従来型PETの検査結果と比較して、より正確に「低酸素がん細胞」の領域を同定し、同領域をターゲットとした放射線治療計画に有用であることを証明したと発表した。
成果は、北大大学院 医学研究科 連携研究センター 分子・細胞イメージング部門の安田耕一特任助教らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、科学誌「International Journal of Radiation Oncology・Biology・Physics」2013年1月1日号に掲載された。
がん内部の酸素濃度は人や腫瘍によりさまざまで、特に低酸素状態にあるがん細胞は放射線治療に抵抗性があり、再発につながる可能性が指摘されている。18F-fluoromisonidazole(FMISO,フルオロミソニダゾール)-PET検査を行うことで低酸素がん細胞の存在やその部位を知ることができるが、従来型のPET装置を用いた場合は分解能が低くぼやけた画像となり、この画像を放射線治療に応用するのは困難だった。
北大と日立製作所は、半導体検出器を用いたヒト頭部用PET装置を開発し臨床応用している。従来のシンチレーター検出器を用いたPETの空間分解能が4~7mmであるのに対して、半導体PETは2.3mmと優れ、小さな対象でもより明確な画像を得ることができる。今回、この半導体PETの特性に着目し、研究が行われた。
今回の研究では、上咽頭がんの10症例において、半導体PETと従来型PETを用いてFMISO-PETを撮像。それぞれのPETで同定される低酸素領域をターゲットとした線量増加強度変調放射線治療の治療計画をシミュレーションし、半導体PETの有用性が検証された。
従来型PETを用いた場合に比べて、半導体PETを用いたFMISO-PETでは、標的となる腫瘍内部の低酸素領域が小さく同定されることを確認。これは、半導体PETでは低酸素領域の辺縁がよりはっきりと描出され、ぼけが少なくなったことを示唆している。
またその結果、治療計画の比較では、半導体PETを用いた方が上咽頭がんの周囲にある脳幹や耳下腺など正常臓器への線量が低下することが示された。これは、線量を増加させる低酸素領域が半導体PETを用いることでより小さく、よりピンポイントで同定され、これにより周囲正常臓器への副作用が抑えられることを示している。
治療抵抗性を持つ低酸素がん細胞にはピンポイントで多くの線量を投与し、それ以外の領域には少ない線量を投与することで、治療効果を高めつつ副作用を減らす放射線治療の実現が期待されると、今回の成果に対して安田助教らはコメントしているほか、今回用いられたFMISO-PET以外にも、腫瘍の代謝、増殖といった状態を画像化するさまざまなPET検査がある。これらを応用し、今まで考慮されてこなかったがんの生物学的特徴に合わせ、分子レベルで腫瘍を標的とする放射線治療の実現に大きく貢献することが期待されるとも述べている。