東京大学(東大)は、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の1つであるβアドレナリン受容体(β受容体)のβ受容体作動薬による「脱感作」が、Gタンパク質共役型受容体キナーゼ2(GRK2)のシステイン残基のS-ニトロシル化で抑制され、結果として受容体の脱感作を阻止できる可能性を実験的に示唆したと発表した。これまでβ受容体作動薬の脱感作を抑制するメカニズムには議論があったが、今回の成果により決着がつくこととなった。
同成果は同大医学部附属病院 腎臓・内分泌内科の飯利太朗 助教と同大大学院薬学系研究科 薬科学専攻の大和田智彦 教授らによるもので、詳細は米心臓協会の学会誌「Circulation Research」に掲載された。
βアドレナリン受容体を持続的に刺激すると、刺激に対する応答が減弱する「脱感作」という現象が起こり、これが心不全などの心血管疾患発症の基盤となることが知られている。
実際、心不全ではGRK2発現増加が観察されており、モデル動物でGRK2発現を抑制すると心不全発症が抑制されることも知られている。近年、GPCR研究でノーベル化学賞を受賞したLefkowitzとStamlerのグループが、生体中で最も多いニトロソチオールであるS-ニトロソグルタチオン(GSNO)によるGRK2のシステイン残基のニトロシル化が、GRK2を抑制し、β受容体の脱感作を阻害すると提唱しているが、GSNOは、システイン残基をニトロシル化する以外に、自発的に分解してそれ自身が心血管保護作用を有する一酸化窒素(NO)を放出することから、GRK2のニトロシル化がGRK2を抑制しβ受容体の脱感作抑制に到るということに対して議論が繰り広げられていた。
今回の成果は、この問題を解明するもので、GRK2が治療・創薬ターゲットになり得ることを示したものだ。具体的には、水溶性をもち、かつNOを放出することなくシステインのニトロシル化を行う化学物質WNNOの設計合成に成功し、これがGRK2をニトロシル化しGRK2のリン酸化を抑制してβ受容体脱感作の抑制に到ることを示した。
なお、研究グループでは、今回の成果による化合物やその誘導体は、今後の疾患研究の重要なツールとなるとともに心不全などの疾患群における新しい治療戦略の基盤となることが期待されるとコメントしている。