SC12において、理研AICS(理化学研究所計算科学研究機構:Advanced Institute for Computational Science)の横川グループディレクタが「The K Computer -Towards Its Productive Applications to Our Life-」と題する招待講演を行った。
京コンピュータのアプリケーションに関する招待講演を行う理研AICSの横川氏 |
まず横川氏は、2002年6月から2004年6月までTop500の首位を占めた地球シミュレータから話を開始した。地球シミュレータは、地球全体の気候の温暖化の問題の重要性が認識されてきた1996年に、この現象を理解し、将来どうなるかを予測することが必須であるという認識から計画された。
当時の地球全体の気象モデルは50~100km格子という粗いものであったが、精度の高いシミュレーションには5~10km格子を使う必要がある。しかし、その計算には、スパコンの能力を少なくとも1000倍に引き上げる必要があると見積もられたという。
このような必要性から地球シミュレータの開発が決まり、1997年に概念設計が始まった。そして、2001年度末に設置が終わり、2002年6月にTop500の1位を取るということになった。
そして、気候変動のシミュレーションに関しては、最高の解像度での大気と海洋の結合モデルによる地球温暖化の解析を行った。また、超高解像度の全球大気モデルの解析を行い、温暖化に伴い大型台風が増加するという発見、地球レベルでのカーボンサイクルが温暖化を加速するという発見を行った。これらの成果はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)にフィードバックされ、第4次アセスメントレポートに対する重要な貢献となっている。
また、マルチスケールシミュレーションにより、地球レベルのシミュレーションから、日本周辺のモデルにデータを与え、さらに都市レベルシミュレーションまでデータを繋ぎ、 5mという超高解像度で都市の空気の流れやヒートアイランド化などの解析を可能とした。
現在ではTop500 500位のシステムのLINPACKスコアが当時の地球シミュレータのスコアの2倍を超えており、このようなシミュレーションは珍しくないが、当時としては画期的な成果であった。
地球シミュレータは気象、気候のシミュレーションが主目的であったが、京コンピュータは、より広範な問題を対象とし、スパコンの使い方やアプリケーションソフトの高度化により日本の国際競争力を維持するキーテクノロジという位置づけで開発が決まったという。そして、具体的にはLINPACK性能で10PFlops、種々の実用アプリの実効性能でPeta Flopsを超える性能という開発目標が設定された。
そして、2006年から概念設計が始まり、2011年には設置が終わり、2011年6月にTop500の1位となったことは記憶に新しい。
一部のユーザに限定した京コンピュータの初期使用(Early Access)は2011年4月から2012年9月にかけて行われ、30以上のアプリケーションが25,000ノード以上の並列実行を達成し、その中でもいくつかのアプリケーションは82,944ノード全部を並列に使用するというレベルに達した。そして、次の図に示すように、当初は95ノード以下の並列性しかないアプリケーションが大部分であったが、それが2011年末には10%以下となり、並列度の改善が進んでいる様子が良くわかる。また、24,576ノードを超す並列度のアプリが2012年の3月頃から出始め、2012年5~6月には50%に達している。
このようなアプリケーションの並列度の改善で実効性能が向上して行き、シリコンナノワイヤの電子状態の解析の論文の昨年のSC11でのゴードンベル賞の受賞につながった。
また、UT-HEARTによる心臓の動きのシミュレーション、NICAMによる大気循環のシミュレーション、SCALEによる層雲シミュレーションなどがすでに京コンピュータの上で動いているという。UT-HEARTのシミュレーションは、心臓の一拍のシミュレーションに京コンピュータの全ノードを2日間使うというシミュレーションで、このような長時間の計算ができるということは京コンピュータの高い安定性を実証するものである。
文部科学省は年間3000万ドルの予算で、SPIRE(Strategic Program for Innovative Research)という名称で、スパコンシミュレーションによって、人間の生活や科学の発展に重要な次に挙げる5分野の研究を推進しており、京コンピュータはSPIREの中核的なコンピュータ資源として使われることになる。
- ライフサイエンス、創薬
- 新物質、新エネルギー生成
- 防災、減災
- ものづくり
- 物質と宇宙の起源
京コンピュータは、このSPIREプログラム以外にも大学、研究機関、企業などから公募したプロジェクトにも使われることになっており、計算資源配分は50%がSPIREの研究、30%は一般公募した研究、15%は理研AICSに割り当てられることになっている。
また、日本は、京コンピュータの次世代スパコンの検討を始めており、アプリケーションについては、理研AICSと東京工業大学(東工大)の合同チーム、スパコンシステムについては、(1)東北大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、NEC、(2)筑波大学、東工大、日立製作所、(3)東京大学(東大)、九州大学(九大)、富士通、日立、NECの3つのチームがフィージビリティスタディを開始している。そして、2012~2013年度のフィージビリティスタディの結果を受けて2014年度から次世代システムの研究開発を開始するという計画となっている。
横川氏は、京コンピュータは科学技術の分野での有用な結果や研究でのブレークスルーを生み出すと期待している。HPCは人間の生活を維持する上で重要な役割を果たすようになってきており、日本は次世代スパコンの開発などによって、引き続き、HPCコミュニティに貢献していくと述べて、招待講演を締めくくった。