理化学研究所(理研)とダ・ビンチは1月10日、朝日から夕陽まで、太陽光の光熱エネルギーをフレネルレンズで効率良く回収し、蓄熱タンクに貯めた水を加温、必要に応じてこの熱を取り出して発電と給湯ができる「熱電併給システム」を考案したと発表した。

同成果は、理研と企業が一体となって研究を進める「産業界との融合的連携研究プログラム」にもとづき、2012年4月に理研社会知創成事業イノベーション推進センター内に発足された、光熱エネルギー電力化研究チームの東謙治チームリーダー(ダ・ビンチ社長)、大森整副チームリーダーらによるもの。詳細については、1月16日に理研にて開催される一般向けシンポジウム「明るい未来の光熱エネルギー」にて説明されるほか、1月30日~2月1日にかけて開催される「nano tech2013」でも説明が行われる予定。

再生可能エネルギーの中でも太陽光を利用した発電は、設置する地域の制限が少なく、設備投資が比較的安価であるため、導入しやすいシステムとして注目を集めている。中でも太陽光発電パネルは、光エネルギーを直接電気エネルギーに変換できるため普及が進みつつあるが、蓄電装置のコストが高い、発電は天候の成り行き次第、朝日や夕日の時間帯は水平光になるため光を回収しにくい、パネル材料に添加されている重金属の分離技術が未確立なため耐用年数経過後の廃棄が困難、などの課題がある。こうした課題を解決するために、例えば、太陽光を追尾する装置などが実用化されている、高コストなシステムとなっているのが現状だ。

研究チームは今回、太陽光がもたらす熱エネルギー(光熱エネルギー)に着目し、太陽光追尾装置や駆動部などがなくても、あらゆる時間帯の光熱エネルギーを回収し、電力と温水を供給できる単純かつ高効率な熱電併給システムの開発を目指して研究を行った。

太陽光追尾装置が不要なシステムとするには、どの方向から太陽光が来ても光熱エネルギーを回収できるようにする必要がある。太陽光を損失なく収束するには、透明度が高く、表面の粗さを抑えたレンズが必要となるため、研究チームでは理研大森素形材工学研究室で開発している、同心円状に溝を刻んだ平面型のフレネルレンズに着目した。

フレネルレンズは、成形加工で作られる薄型のプラスチックレンズで、レンズ厚が薄くても光を効率よく収束できるという特長を有する。大森素形材工学研究室のフレネルレンズは、透明度が高く、表面の粗さが20nmの高精度レンズで、超高エネルギー宇宙線を観測するための望遠レンズとして開発が行われているものだ。

研究チームはこのフレネルレンズを、立方体の上面と側面(東側、西側)に組み合わせることで、、建物が反射したり、空気中を乱反射したりする反射光を、光熱エネルギーとして回収することを可能としたほか、立方体の内部には、フレネルレンズが収束した光熱を受ける、アルミ合金でできた逆T字型の熱交換器を設置。これにより朝方は、東側のフレネルレンズ面が朝日を収束して、熱交換器の垂直面を照射。太陽が南中して仰角が大きくなる昼ごろは、上側のフレネルレンズ面が太陽光を収束し、熱交換器の水平面を照射。そして夕方になると、西側のフレネルレンズ面が夕陽を収束し、朝方と反対側の垂直面を照射することで、太陽光追尾システムがなくても、全方向からの太陽光を回収できるシステムを実現した。

また、熱交換器内には流体流路が張り巡らされており、蓄熱タンクの水が循環する仕組みで、ここで熱交換器に集まった光熱エネルギーが水を温める。研究チームでは、このフレネルレンズ・熱交換器・蓄熱タンクで構成したシステムを「フレネル・サン・ハウス」と命名したという。

さらに、電気が必要なときは、蓄熱タンクに蓄えた光熱エネルギーを、ダ・ビンチが開発したロータリー熱エンジンへ供給することで、熱媒体である代替フロン(HFC245faなど)を気化してロータリー熱エンジンを回し発電を行うことが可能で、これにより電力と湯を同時に供給する「熱電併給システム」を構築することが可能だ。ロータリー熱エンジンは、シリンダー容積の変化で回転エネルギーを発生するため、低温域の熱源から生じる低い圧力でも熱仕事効率が良く、40℃まで回転エネルギーを引き出すことが可能だ。そのため、同じ熱量でも、温水を循環利用してそれを使い尽くすことができ、発電総量の増加が見込めるという。

研究チームでは、この熱電併給システムについて、使い勝手の良いコージェネレーションシステムとしての利用が期待できるほか、自家発電装置あるいは分散型電源としても有用だと説明する。また、工場の廃棄熱などを供給すると24時間発電も可能になるほか、発電後の湯を浴用などに利用したりすることも可能であるため、エネルギー利用効率の向上にもつながるとしている。

研究チームでは、一般の家庭では、1日平均で約1kW程度の電力が必要であり、10世帯が共用すると10kW程度の電力需要となることから、導入コストとその回収を考えた場合、家庭用・工業用のどちらでも10kW程度のシステムが費用対効果が良いと考えられるとしており、2013年中に出力1kWクラスのシステムを試作して課題を抽出するとともに、フレネルレンズの構成の見直しや量産化、ロータリー熱エンジンの出力効率の向上などを図っていく計画としている。また、2014年には10kWの実証システムの完成を目指す方針とするほか、地方自治体と連携して、太陽光熱の有効利用と分散型電源の確立を目指したパイロットプラントの建設も進めていきたいとしている。

フレネル・サン・ハウスとロータリー熱エンジン。上の図の右がフレネル・サン・ハウス。同心円状に刻んだ溝により効率よく集光できるフレネルレンズ、集光した光を熱エネルギーに変換する逆T字型の熱交換機、蓄熱タンク、の3要素で構成されている。一方の左はフレネル・サン・ハウスが供給する温水を利用して発電するロータリー熱エンジン。蒸発器内の作動流体を加熱して蒸気を生成し、その蒸気を動力源としてエネルギーを回収。そして蒸気を凝縮器で冷却して液化しポンプで蒸発器に戻すといった工程を繰り返す(ランキン・サイクル)ことで、高効率発電を実現することが可能となる。下の画像はフレネル・サン・ハウスの形状モデル

ロータリー熱エンジン10kwシステム(縦67cm×横121cm×高さ211cm)。ランキン・サイクル・システムのエンジンに外燃式のバンケル型エンジンを搭載したシステム。ダ・ビンチが開発したシステムで、40℃の低温熱源でも熱仕事効率が良いのが特長。フレネル・サン・ハウスと組み合わせることで、太陽光熱を回収して、電力と湯を供給する効率の良い太陽光熱コージェネレーションシステムとなる