京都大学(京大)は、放射線医学総合研究所(NIRS)、クラレの協力を得て、ポリスチレンをベースにした「プラスチックシンチレーション物質」において、定説の蛍光原理では説明できない光子の増幅放出を観測し、その光子の数はポリスチレンに添加した蛍光剤の濃度のべき乗関数に従い増加することを明らかにしたと発表した。
成果は、京大 原子炉実験所の中村秀仁助教(放射線医学総合研究所客員研究員・千葉市科学都市戦略専門委員兼任)、同副所長の高橋千太郎教授、NIRS 研究基盤技術の白川芳幸部長、同・北村尚係長、クラレ新潟事業所・メタアクリル開発部の新治修グループリーダー、同・斎藤堅部員らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国時間2012年12月28日付けで米国物理学協会速報誌「Applied Physics Letters」に掲載された。
放射線を高い感度で検出するため、幅広い分野で、プラスチックに蛍光剤を添加した「プラスチックシンチレーション物質」が使われている。その原理には20世紀中頃に確立された蛍光原理が応用されており、放射線によりプラスチックで生成された紫外光を、蛍光剤で段階的に可視光へ変換する、「ladder(梯子)」として説明されるものだ。それは、プラスチックシンチレーション物質の製造の際、プラスチックからの蛍光波長とオーバーラップする吸収波長を持つ蛍光剤を必要としている。
研究グループは、高性能なプラスチックシンチレーション物質を開発するため、「電離放射線」を受けることで紫外光を放つポリスチレンに注目。ここでは定説の必要条件と異なり、ポリスチレンからの蛍光波長とのオーバーラップが小さな吸収波長である「パラターフェニル」を蛍光剤として採用した。
定説の蛍光原理では、プラスチックで生成された光は、蛍光剤で吸収、再放出されるたびに減衰していく。さらに、ポリスチレンの発光波長とパラターフェニルの吸収波長を考慮すると、ポリスチレンをベースにしたシンチレーション物質から放たれる光子の数は、パラターフェニルの有無に依存せず、蛍光剤を添加しないポリスチレンからの光子の数より少なくなるはずだった。
しかしながら、実際には、ポリスチレンをベースにしたシンチレーション物質から、蛍光剤を添加しないポリスチレンを上回る数の光子が観測されたのである(画像1)。つまり、新たな光の誕生が示されたというわけだ。
さらに、そのシンチレーション物質からの光子の数は、蛍光剤の濃度(最大5桁の変化)に対し、べき乗関数にしたがい増加することが明らかになった(画像2)。これらの現象は、現状のプラスチックシンチレーション物質の蛍光原理では説明できず、蛍光原理に新たな解釈を要求している。
なお、今回の研究成果は、自然環境放射能・放射線測定や素粒子・原子核実験などに幅広く使用されているプラスチックシンチレーション物質を用いた放射線検出器の高性能化につながるものと、研究グループはコメントしている。