米科学誌「サイエンス」は2013年の科学界の注目領域として「1細胞DNAシークエンス」や欧州宇宙機関(ESA)の人工衛星「プランク」、ロシアなどが掘削を計画している南極の「氷底湖」、ヒトの神経網マップの製作に取り組む「ヒト・コネクトーム・プロジェクト」などを挙げた。
このうち「1細胞DNAシークエンス」は、マイクロ流体工学の進歩や生体細胞の単離、ゲノムの瞬時解読などの技能向上によって2012年に表出した新技術だ。1個の細胞のRNAを調べることで、脳などの細胞の働きが分かるようになる。また、1つの腫瘍におけるがん化や、がん細胞に存在する遺伝子などが明らかになり、がん診断や出生前検診などへの応用も予測される。
欧州宇宙機関(ESA)が2009年5月に打ち上げた人工衛星「プランク」は、宇宙誕生期の「ビッグバン」の名残りとされる「宇宙マイクロ背景放射」(the cosmic microwave background radiation :CMB)を観測し、その詳細な結果が今春の国際会議で発表される。CMBの発見(1965年)はビッグバン説を強化し、1992年の宇宙の温度変動の測定によって、初期宇宙の進化モデル「インフレーション宇宙論」が支持されている。これらを基に宇宙の物質・エネルギーの組成は、通常見られる物質が5%、目に見えないダークマターが22%、宇宙に広がるダークエネルギーが73%であると考えられている。「プランク」の観測結果が現在の標準的宇宙論を補強するのか、さらに修正が必要となるのか。「プランク」ミッションの成果に関する国際会議は2013年4月2-5日、オランダで開かれる。
南極の氷床下3,768メートルに、世界最大級の淡水湖「ボストーク湖」がある。この氷底湖は1996年の発見以来、複数の調査チームが、作業期間が限られる中でのボーリングを継続してきたが、ロシアチームが2012年2月に、あと数メートルのところまでに到達した。同湖は1500万-3000万年間氷床の下にあったとみられ、独自進化をとげた微生物などの発見の可能性もあるため、ロシアチームは湖水の汚染防止策などを検討し、南極の夏季にあたる今の時季に掘削を再開するという。英国チームは、ボストーク湖とは別の氷底湖「エルスワース湖」の掘削を行う計画だ。
また2013年は、ヒトの神経回路のすべての接続状態を地図にする「ヒト・コネクトーム・プロジェクト(the Human Connectome Project)」が最終年を迎える。これは米国立衛生研究所(NIH)が2009年から5カ年計画で、総額3,850万ドル(約32億7,000万円)の予算で進めている。300組の双子を含む計1,200人の健康人の脳をスキャンし、脳内領域間の神経回路の接続状態の違いや、それによる認知や行動への現れ方などを調べる。こうした神経網マップがどれだけ私たちの脳機能の理解に役立つのか賛否はあるが、13年末までには、その論争を助けるより多くの情報が得られそうだという。
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