日本化薬と中部電力は、100~150℃の低温で硬化が可能な超電導コイル用低温硬化型電気絶縁材料を開発したことを発表した。

同分野における絶縁材料としては一般的にポリイミドフィルムが使われているが、同フィルムを加工するためには350℃の高温が必要で、専用の熱処理装置が必要である。また、テープ状のポリイミドフィルムを巻きつけて電気絶縁とするためにテープ同士の隙間や重ねられた段差で電気絶縁が損なわれるという欠点もあった。

今回開発された材料は、独自開発の反応性ポリアミド樹脂をベースに採用することで、液状の前駆体を塗布した後に100~150℃の熱処理で被覆加工できるため、加工に必要な熱エネルギーを45%程度削減できるほか、ポリイミドフィルムと同等の絶縁性を保ちつつ、テープ巻きによる電気絶縁の低下という弱点の克服を可能にした。また、-270℃の極低温から+250℃の高温まで広範囲の温度領域で使用することができるほか、通常のポリイミドに比べ高い金属接着性と高い熱伝導性を持つといった特長も有している。

このため同材料で被覆した超電導線材は、高い可とう性を実現しつつ、均一な被膜で電気絶縁されるため、従来のポリイミドテープで課題であった、テープの切れや偏りによる絶縁性能の低下、コイルの寸法精度の悪化などを防ぐことが可能。また、高い超電導特性を持つ酸化物超電導体は、300℃程度の熱処理で超電導特性の劣化が発生するため、これまで塗布による電気絶縁処理が不可能であったが、同材料を用いることで塗布被覆が可能となり、絶縁性の確保と加工性を両立した曲げに強いフレキシブルな絶縁被覆を形成することが可能となる。実際に、同材料を用いた場合の超電導コイルは、極低温下で応力を受けても被覆に変化は認められず、絶縁性の確保と強固な接着性の維持が確認されたという。

さらに超電導では、大電流により強い磁場が発生するため、超電導線材を伸ばそうとする強い電磁力が働くが、従来の超電導コイルは、線材が電磁力を支える構造を採用していたため、超電導線材の強度による限界があり、より大きな電流を流すためには、より強い電磁力への耐性を持つコイルの開発が望まれていた。そこで、今回の材料および塗布絶縁技術を活用すると、超電導線材に均一な被膜が施されるため、コイル化した場合に発生する線材間の応力に偏りがなくなり、電磁力をコイル側面で支持する新しいコイル構造と組み合わせたところ、従来の超電導コイルの2倍以上の強度の電磁力に耐えるコイルの開発に成功したという。

これにより、例えば超電導電力貯蔵装置(SMES)では、従来と同サイズのコイルで10倍のエネルギーが貯蔵できるようになるという。

今回開発された新材料 ポリイミドテープ
加工温度(℃) 120 350
加工時間(分) 30 60
加工時副生物 なし あり(水)
適応温度範囲(℃ -270~+250 -270~+300
金属接着強度(N/mm) 2.4 0(なし)
熱伝導性(W/m・K) 2.0 0.2
通常のポリイミドと新たに開発された材料との性能比較