東京工業大学、ニューサウスウェールズ大学、国立天文台、広島大学、兵庫県立大学からなる研究グループは、岡山天体物理観測所の188cm望遠鏡とアングロオーストラリアン望遠鏡を用いた観測により、「HD4732」と呼ばれる巨星を周回する2つの巨大惑星を発見したことを発表した。同成果の詳細は天文学誌「The Astrophysical Journal」2013年1月1日号に掲載される予定。

研究グループは、2001年から岡山観測所で約300個の巨星を対象に視線速度法による系外惑星探索プロジェクトを進めてきている。今回、巨大惑星を発見した巨星「HD4732」もその中のプロジェクトの一環として2004年8月より観測を開始。1~2年ほどの観測で、同天体が公転周期約1年の惑星を持つことが判明したほか、さらなる観測により、長周期の2つ目の惑星が存在する可能性も見えてきていた。しかし同天体は南天の星で高度が低く、岡山観測所からは約半年間しか観測できないことから、公転周期約1年の惑星の場合は常に軌道の半分しか観測できず、その結果、正確な軌道の決定ができず、2つ目の惑星の有無の確認も難しい状態が続いていたという。

巨星を周回する2つの巨大惑星の想像図 (C)国立天文台

HD4732の位置。HD4732はくじら座にある5.9等星で、太陽の約1.7倍の質量と約5倍の半径をもつ。地球からの距離は約180光年。赤緯マイナス24°のため、岡山からは約半年間しか観測できない (C)国立天文台

そこで、2010年9月からオーストラリア・ニューサウスウェールズ大の研究者と協力し、アングロオーストラリアン望遠鏡での観測を開始。南半球であるオーストラリアは岡山よりも長い期間この天体が観測できるため、この観測から、公転周期約1年の惑星の軌道を正確に決定でき、その結果、2つ目の惑星の存在が確定され、その公転周期も約2700日であることが判明したという。

HD4732で観測された視線速度変化。横軸はユリウス日、縦軸は視線速度変化(メートル毎秒単位)。黒丸が岡山観測所188cm望遠鏡、青丸がアングロオーストラリアン望遠鏡での観測点を表す。赤線は観測された視線速度変化を最もよく再現する理論曲線。周期約360日と約2700日という2つの周期的変化を示しており、この恒星の周りを2つの惑星が公転していることを意味している (C)国立天文台

HD4732を周回する2つの惑星の軌道の形(赤い実線)。真ん中の+印が恒星の位置。破線は比較のため示した太陽系の地球、火星、木星(内側から)の軌道の形。数字は天文単位(AU) (C)国立天文台

今回発見された2つの惑星の質量はどちらも木星の約2.4倍と推定されるが、この質量は下限値だと研究グループでは説明する。これは、観測に用いられた視線速度法では、通常惑星の軌道の傾きが分からないため惑星の真の質量を知ることができず、あくまで下限値しか求められないためで、実際は軌道の傾き次第で、もっと重い恒星のような天体の可能性もあるという。

ちなみに、今回のような複数惑星系の場合、惑星軌道の安定性を調べることで惑星質量に制限をつけることができるという。惑星が重ければ重いほど惑星同士の重力相互作用が強くなり、ある質量以上では短い時間で軌道が不安定になるため、惑星系を観測することができなくなるためだ。そのため、現在の技術で発見するためには、その惑星系が少なくとも親星の年齢くらいの期間は存在し続けなければならない。今回の惑星の場合、理論計算の結果、軌道が安定であるためには惑星の質量は木星の約28倍より小さくなければならないことが判明した。これは、2つの天体は重くてもせいぜい褐色矮星程度であって恒星ではないことを示す結果であるという。

研究グループでは、複数惑星系には、上述のような利点の他にも惑星系の形成や進化の研究にとって重要な情報が含まれていると説明する。特に巨星で複数惑星系が見つかった例は未だ少なく、今回の2つの天体を観測することで、さまざまな研究の進展が期待できることから、今後も日豪協力を推進していくことで、複数惑星系を含むより多くの惑星系を発見していきたいとコメントしている。