宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月21日、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟船外実験プラットフォーム「きぼう」からの地球超高層大気撮像観測ミッション「ISS-IMAP(Ionosphere, Mesosphere, upper Atmosphere, and Plasmasphere mapping)」が初の観測データを取得したことを発表した。

同ミッションは、地球大気と宇宙の境界領域で大気が光り輝く現象(大気光、プラズマ共鳴散乱光)を「VISI(可視・近赤外分光撮像装置)」と「EUVI(極端紫外光撮像装置)」と呼ばれる2台のカメラで観測し、地球の気候変動や衛星通信・GPSナビゲーションシステムの受信障害・精度劣化などの原因をさぐることを目的としたもの。

JAXAのほか、京都大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、九州大学、情報通信研究機構、国立極地研究所などの研究者による共同研究として、7月21日に打ち上げられた「HTV-3(こうのとり3号機)」に搭載され、ISSへ運ばれていた。その後、8月より初期観測を実施し、10月15日から定常観測を開始しており、初観測データは9月25日~26日の初期観測時に取得されたという。

9月25日に観測されたデータは、ISSが大西洋上空からポルトガル、フランス上空にさしかかる地域でVISIが撮影したもの。

図1がそのデータで、右側は背景光と呼ばれる「大気光」が光っていない波長の光を使って撮影された画像で、ハリケーンの渦状の雲や、町灯りが写っていることが分かる。一方の左の画像は、波長が762nm(近赤外線)の大気光の撮影画像だ。

ISS-IMAP/VISIの762nm大気光撮影画像。2012年9月25日11:20(日本時間)付近の観測データ

波長762nmの光は大気の酸素分子で吸収されるため、町灯りや雲からの月光の反射光のうち波長762nmの光はISSまでは届かず、ISSに近い高高度(高度95km)で発光する大気光のみが撮影される。

この波長762nmの大気光の観測により、世界で初めて、高度95kmの超高層大気が水平波長数十kmで波打つ様子(オレンジ色の中に見える白い斜めの線が1つひとつの波)が宇宙から観測されたこととなった。これらの波は、重力があるために大気が波打つ現象で、大気重力波と呼ばれている。

9月26日に観測されたデータは、太平洋上空でのEUVIによる撮影データで、高度1,000km以上の高高度まで広がる電離圏のヘリウムイオンが光る様子が観測された。この光は、とても弱い光だが、設計通りの高い感度により、撮影に成功したという。図2がそのデータで、画像の左右と上側が暗くなっているのは装置の感度特性のためだという。

ISS-IMAP/EUVIのHeイオンの共鳴散乱光。撮影画像は2012年9月26日16:30(日本時間)にニュージーランド上空付近で観測されたもの

なお、VISIとEUVIの両機器は、ともに今後2年間にわたり、これまで捉えることができなかった地球全体での超高層大気や電離圏の激しい変動の様子を観測していくこととなる。研究チームでは、その観測データを調べていくことで、地球全体の気候変動の状態や衛星通信・GPSナビゲーションシステムの受信障害・精度劣化などの原因を調べていくことができるようになると期待されると説明している。