東京大学(東大)は12月20日、セルロースが植木などの細胞壁において形成している「セルロースミクロフィブリル」をキャビテーション法と統計的手法で解析した結果、2~6GPaの引張破断強度を持つことを確認したと発表した。

同成果は、同大 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻の齋藤継之 助教、同 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 修士課程の蔵前亮太氏、同 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻の磯貝明 教授、スウェーデン王立工科大学のJakob Wohlert博士研究員、同 Lars A. Berglund教授らによるもの。詳細はアメリカ化学会誌「Biomacromolecules」オンライン版に掲載された。

セルロースは、植物体を支持する主成分として細胞壁に蓄積し、30~40分子が束となり約3nm幅程度の高結晶性のミクロフィブリルを形成し、植物体の生命を維持している。このセルロースミクロフィブリルは、高アスペクト比(長さ/幅の値)、高弾性率、低熱膨張率、高比表面積などの特異的な性質を有するため、近年、材料科学分野で注目されるようになってきている。

しかし、セルロースミクロフィブリル1本単位の引張破断強度はこれまで測定されてこなかった。というのも、植物細胞壁内においてミクロフィブリル同士が無数の水素結合によって結束しているため、その1本1本を分離して取り出すことができなかったためだ。

研究グループでは2011年に、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル)触媒酸化を用いて、セルロースミクロフィブリルを1本1本に完全に分離し、水中でナノ分散させる手法を確立。今回の研究では、そのTEMPO触媒酸化を経て完全ナノ分散した、幅約3nmの樹木セルロースミクロフィブリル、および幅約10nmのホヤセルロースミクロフィブリル単繊維の引張破断強度の検討を行った。

測定は超音波キャビテーション法と、材料破壊の統計分析であるワイブル分布を用いて行われた。超音波キャビテーションは、液中で超音波の疎密波が伝播する際に生じる気泡とその消滅に関する現象のことで、液中に分散したセルロースミクロフィブリルを超音波キャビテーションで処理すると、気泡が消滅する際に、気泡の中心に向かってミクロフィブリルの長さ方向に引張応力がかかる。これをセルロースミクロフィブリルの幅と、超音波処理の時間変化で得られる最少長さ分布を透過型電子顕微鏡などで解析し、原理となる数式に基づいてセルロースミクロフィブリルの引張破断強度を算出したところ、2~6GPaという高い強度を有することが判明した。

超音波キャビテーションによるミクロフィブリルの引張破断メカニズム

この引張破断強度は、自然界のあらゆるバイオ系素材の強度を上回るもので、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)あるいはアラミド繊維などの超高強度繊維と同等の値で、これは鋼鉄の約10倍に相当するという。TEMPO酸化セルロースミクロフィブリルは現在、酸素バリア透明フィルムや衝撃吸収材、プラスチックのナノ補強材、金属ナノ粒子触媒の担体などへの応用が検討されているが、今回の成果により、再生産可能で豊富な生物資源のさらなる利用促進と用途拡大が期待されると研究グループでは説明している。

セルロースミクロフィブリルの透過電子顕微鏡画像。樹木セルロースミクロフィブリルの超音波処理時間による長さ変化(a:5分、b:80分、c:200分)、およびホヤセルロースミクロフィブリルの超音波処理時間による長さ変化(d:5分、e:80分)