理化学研究所(理研)と明治薬科大学は12月13日、沖縄県の西表島と北海道の利尻島を対象に生息する酵母の多様性調査を行い、両島に生息する種が現在確認されている種全体の14%を占め、それぞれに異なる多様性を有していることを明らかにしたと共同で発表した。

成果は、理研バイオリソースセンター 微生物材料開発室の大熊盛也室長、同・高島昌子ユニットリーダー、同・遠藤力也協力研究員、明治薬科大 微生物学教室の杉田隆准教授らの共同研究グループによるもの。研究は発酵研究所第一回特定研究「日本における微生物の多様性解析とインベントリーデータベースの構築-亜熱帯域と冷温帯域の比較から」に基づくもので、詳細な内容は11月30日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

自然界の植物、土壌などいろいろな所に生息する微生物である酵母といえば、パンや日本酒など、すぐにその発酵食品を思い浮かべるくらい生活に密着している。また微生物資源としても重要で、その年間生産額は日本で8兆円といわれているほどだ。

一方、自然界に生息する酵母種の内、認識されているのは全体の5%程度といわれている。環境中での酵母の役割の研究なども、まだ始まったばかりだ。この理由は、これまでは、形態などの限られた指標に基づく同定だけで、酵母の集団のサイズや多様性の推定を行っていたからである。

近年、DNAの塩基配列に基づく種の同定が広く行われるようになり、さまざまな環境に生息する酵母種の把握が正確かつ容易に行えるようになってきた。生物の多様性の保全や資源としての持続的利用のためには、分類学上で種よりも大きいまとまりを指す「属」レベルでの指標の確立も必要となってきている。

しかし、同じ属名を持つ種が複数の系統枝にほかの属名の種と混じって存在するなどの問題が多く、塩基配列に基づく決定的な分類指標の確立が求められていた。

研究グループは、西表島と利尻島の植物と土壌からそれぞれ2回ずつサンプリングを行い、酵母を1021株分離した。生物の系統関係の推定に利用される「リボソームRNA」をコードする遺伝子の部分塩基配列を酵母ごとに解析した結果、これらは183種に分類することに成功。さらに、その内の約半数が新種であると推定できた形だ。

この183という種の数は、現在の酵母分類学の標準の参考書である「The Yeasts, A Taxonomic Study」第5版(2011年)に収載されている種の数(1312種)の14%に相当し、日本の酵母が多種多様であることを示している。

また両島で共通する種は15種だけで、地域間の有為差検定により日本国内でも地域により生息する酵母種がまったく異なるということがわかった。また、同定した酵母には、バイオディーゼルの原料などに期待されている脂肪酸を蓄積するものも含まれており、産業利用できる酵母の存在も地域により特色があることが示された形だ。

次に、塩基配列の類似度を基に、サンプリングの場所と分離源に分けて「レアファクション解析」(生態学において、サンプリングの結果を基に生物多様性の度合いを求める方法)を行うと、各グループはそれぞれ独自のパターンを示した。これにより、多様性は種レベルはもちろんのこと、属レベルやもう少し大きい範囲を想定し比較しても異なっていることがわかったというわけだ。

今回、サンプリング地域内で多くの新種を得られたことは、日本の微生物資源の豊かさを改めて認識させるものであり、資源探索の可能性をさらに広げるものだという。

今回の研究で用いた分離源は、西表島と利尻島の土と一部の植物葉に過ぎない。日本の豊かな自然環境が育む多様な昆虫・土壌動物などにも分離対象を広げれば、さらに多くの酵母が発見できる可能性がある。よって、より包括的な酵母の多様性評価が今後の課題だ。

今回の研究で西表島から得られた種の中には、例えば、屋久島や小笠原諸島で分離された種や、熱帯地域で分離された種もあった。また、利尻島からは日本国内の別の地域や欧米で分離された種や、南米のパタゴニア地域で分離された種もあった。

今回得た塩基配列データは、すべて国際塩基配列データベース「INSD」に登録しており、今後、地球上の別の地域から、西表島や利尻島に生息する種と同種のものが得られる可能性もあるという。

さらに、世界各地からのデータが蓄積され、地球規模の生物多様性の議論も可能となった時、今回の研究で行った塩基配列の類似度が指標になると期待できるとしている。

今回の研究の流れ