LSIは12月6日、都内で会見を開き、同社のフラッシュストレージ分野に向けた取り組みについての説明を行った。

爆発するデータ量にITはどう対応していくのか

LSI エグエクティブバイスプレジデント ストレージ・ソリューション・グループ(SSG)のPhil Brace氏

コンピュータ業界は、PCからモバイルデバイスへ、その中心を移しつつあり、併せてネットワークの高速化も実現されてきた。これにより、2012年の現在では、3分間(180秒)の間に、6億1200万通の電子メールが送信されたり、6000万枚の画像が閲覧されたり、Amazonが27万5000ドルの収益を上げたり、Youtubeで390万回のビデオが再生されたりするような状態となってきた。こうしたデータは一カ所ではなく、世界中のあちこちに存在し、かつそれは増え続けている。

そうした増え続けるデータに対して、IT側はストレージの容量を増やしているが、データの量やトラフィック量は指数関数的に増大し、ITやネットワークに投じられる金額との差が開きつつあり、今後もその傾向が続くことが予想される。「データ量の増大が続けば、必要なデータそのものにアクセスすることが困難な、いわゆる氾濫した状態になる。それを防ぐためには、増えるデータ量と、IT投資で増える性能の差を埋めていく必要がある」とLSI エグエクティブバイスプレジデント ストレージ・ソリューション・グループ(SSG)のPhil Brace氏は語る。

左が3分間でデータの世界で起きる出来事。右はデータ量は急速に伸びているものの、IT投資額はそれほど伸びていないことを示すグラフ。今後、その差が広がれば広がるほど、データを捌くことが難しくなっていくことから、その差をテクノロジーがどう埋めていくかがポイントになるというのが同社の主張するところ

また、ITのどういった分野でイノベーションが生み出されているのかの力点も変化してきているという。データセンターのタイプに見た場合、Small and Medium-sized Enterprise(SME)やリモートオフィス、従来型のエンタープライズデータセンターに比べ、クラウド/メガ・データセンターの成長予測は強く、技術革新の要求が非常に強いという。

こうした成長が期待されるメガ・データセンターを中心に同社はデータ保護ソリューションとしてRAIDカード「MegaRAID」と、フラッシュメモリをキャッシュとして活用することでアプリケーションなどを高速化する「Nytro」を提供してきた。こうしたボード/カードソリューションとしてはユーザーに接続性とパフォーマンスを提供するHBA(ホストバスアダプタ)をベースに、データ保護のMegaRAID、そしてその上にアクセラレータとしてのNytroシリーズという位置づけだが、このNytroの上位レイヤ的な部分として新たに共有ソリューション「Syncro」が発表された。

データセンターのタイプとそれぞれの成長予測など。クラウド/メガデータセンターの2012年の製品出荷に占める割合は20%だが、その成長率は高く、また技術的なイノベーションへの要求も高いものとなっている

LSIが提供するストレージアダプタ製品群の概要。今後はNytroの上位にSyncroが位置づけられることとなる

SME向けとメガデータセンター向けにまったく異なる2種類のSyncroを用意

従来、単体サーバの環境で活用されてきたDirect-Attached Storage(DAS)では、複数のインタフェースを持たなければ複数台のコンピュータで共有することができず、、高パフォーマンス、低コスト、管理のしやすさなどがある一方で、データの共有ができない、拡張性がない、耐障害性の確保が難しい、といったデメリットが存在していた。

Syncroはこうした課題の解決を目指して開発されたもので、MegaRAIDのアーキテクチャを応用展開したものとなっている。小売店などを中心としたSME向けの「Syncro CS」と、メガデータセンター向けの「Syncro MX-B」の2製品が用意されており、Syncro CSはMicrosoftとの3年以上のコラボレーションにより生み出された製品だという。

Syncro CSはMegaRAIDのようなPCI Express(PCIe)対応カードで提供される。Windows Server 2012の高可用性イニシアティブの主要テクノロジーに位置づけられており、これを活用することで、簡単に2つのサーバで1つのストレージを共有することが可能となる。「Syncro CSはMegaRAIDのアーキテクチャとそのソフトウェア、そしてMicrosoftとのコラボレーションの3つが混ざり合うことにより生み出されたソフトウェアベースの製品」(同)であり、2013年の第1四半期中の出荷を予定しているが、価格については、「SMEに意味がある価格設定にする必要がある」との認識を示すものの、「競合となるのが従来のソリューションということで、そうした場合との価格比較で見比べてもらえれば」という程度の価格になることを示唆した。

Syncro CSを用いることでDASを手軽に共有化することが可能となる

一方のSyncro MX-B(この"B"はABCのBではなくBootの頭文字だという)は、1Uラックマウントのシステムで、1ポートあたり4台のサーバにSATAインタフェース(Syncro MX側がeSATA、サーバ側がプラケットにSATAの拡張ポートをセットし、そこからSATAケーブルでマザーボードに接続される)経由で接続できるブートアプライアンス。システム内部に1台もしくは2台のブートドライブを搭載し、それぞれのサーバのブートイメージをそこに格納することで、24台(6ポート)もしくは48台(12ポート)のサーバに対してブートを行うことを可能とする(SATA接続により各サーバからはローカルのドライブとして認識されることとなる)。これにより、各サーバごとにブートドライブを搭載する必要がなくなるため、ブートドライブの故障を最大100分の1に減少できるほか、HDDの管理コストも最大60%低減できるとする。

同氏は「実際にSyncro MXを販売するのはサーバベンダなどのOEMになるだろう。彼らがブートドライブを外したサーバとセットでメガデータセンターに提供していく形態がベターだ」と、Syncro MXの販売に関して説明する。自社でそれまで販売できるだけの体制が整っていないということであり、ごく一部のメガデータセンターとは直接やり取りする可能性がある程度だという認識を示す。また、日本についても、HDDベンダやサーバベンダが居ることから、そうした各ベンダとコラボレーションをして販売していくことになるとのことであった。ちなみに、Syncro MXはMicrosoftとのコラボレーションは行っていないという。これは、メガデータセンターで用いられるOSがLinuxメインであるためであるとしている。

なお、Syncro MXの方は2013年の上半期中に出荷を開始する予定だという。

Syncro MX-Bを導入することで、19インチラック(48U)のサーバすべてからブートドライブを省くことが可能となる

下がSyncro MX、上がサーバ替わりのPC。SATAで接続される

Syncro MXのポート部分。1ポートあたり4台のサーバに接続可能

サーバ側は、アダプタを介してSATAポートまでケーブルがつながる格好

2013年にフラッシュコンポーネント部門のエンジニア数を大幅増員

同社は2012年1月にSSDコントローラを手掛けるSandForceを買収し、ブランドを維持したままFlash Storage Processor(FSP)製品として販売を継続してきた。「同製品はすでに世界で50社以上に販売され、前年比で200%の成長率を達成している」と、ビジネスのドライバ役の1つになっていることを強調する。

しかし、フラッシュプロセス技術そのものは、というとプロセスの微細化が進み20nmプロセスを切るような製品も登場しつつあるが、微細化にともない浮遊ゲートにおける電荷を保持能力が減少し、その結果、書き込み寿命の減少や書き込みエラーの増加などが発生し、それらに対応するための補正機能の強化などが求められるようになってきている。「こうした課題を解決するための鍵を握るのはFSPにエラー訂正能力とデータ保障の機能を持たせること」であり、そのために2013年には(Nytroなどを含む)フラッシュコンポーネント部門の開発人員を1年間で30-40%増員する計画だという。同社の社員は全世界で約5000名で、その内エンジニアの数は約3500名。現状、そのうちの10%程度が同部門のエンジニアであり、これが今後1年で倍の20%程度になるイメージだという。

こうした背景には、上述したNAND型フラッシュメモリ側からのニーズもあるが、成長分野がゆえの競合の多さ、という点も見逃せない。競争優位性のある製品を出せなければ、一気にそのシェアが落ちる可能性があるからだ。しかし同氏は「SSDコントローラは確かに競合が多い市場だ。しかし、今が過渡期であり、今後は整理統合が進むことが見込まれる。従来以上の信頼性が求められるようになるだろうし、さまざまな補正機能などのIPを有していない企業も競合には多いからだ」と、将来的な市場動向を分析してみせる。

そのため、同社でも増員したエンジニアをすべてコンシューマ向けに投じるつもりはなく、どちらかというとSSDがまだ攻めきれていないエンタープライズ分野に向けた製品の開発を推し進めたいため、というのが垣間見える。「ビジネス分野では、多種多様なフラッシュメモリの活用方法があり、それぞれの用途に合ったコントローラが必要となる」とのことで、実際にすでにPCIeで接続されるSSD向けインタフェース規格「NVMExpress(NVMe)」などに対応したコントローラを発表したメーカーなどもあり、そうした分野への対応などが必要だという判断であろう。

「我々はフラッシュメモリを活用する新たな分野の開拓を意欲的に行っていく。Syncro CSは現在、2ポート品しか予定していないが、よりポート数の多い製品に対するニーズがあることは理解している。また、Nytroシリーズもデータベース向けや仮想環境向けといったニーズがある。また、Syncroのようなまったく新しい分野に向けた製品も開発を進めており、2013年にはそれらのいくつかが発表できる予定だ」と、2013年はチップ、ボード、アプライアンスそれぞれのレベルで2012年以上に強力な製品を提供していくことを同氏は強調しており、テクノロジーベンダとして、世界経済が軟調であっても、技術の革新は求められていくことから、そうしたニーズに対応できる技術開発をしっかりと行い、時代時代に応じた変化に対応を図っていきたいとした。

LSIのFSPのアドバンテージ