ソーシャルメディアマーケティング(以下SMM)に積極的に取り組まれている企業の担当者に、現場でのSMM活動の実際についてお聞きするインタビューシリーズ【企業担当者に聞くSMM最前線】

今回は、250年の歴史を誇る世界的な名門ワイングラスブランド「リーデル」を展開するRSN JAPAN株式会社代表のウォルフガング J.アンギャル氏とマーケティングを担当する西村敏雄氏に、同Facebookページ運営の裏側や、実際の効果についてお聞きしています。

ファン数約47,000名で話題にしている人が9,000名超。1投稿あたりのエンゲージメント率が平均8~10%を誇る、大人気のFacebookページ「Riedel Japan (リーデル・ジャパン)」運営の裏側とは?

前半記事:【企業担当者に聞くSMM最前線】リーデル(RSN JAPAN 株式会社) ウォルフガング J.アンギャル氏・西村 敏雄氏~高エンゲージメント率を誇るFacebookページによる”効果”とは?(1/2)http://news.mynavi.jp/news/2012/12/07/012/index.html

RSN JAPAN株式会社 代表取締役社長 ウォルフガング・Jアンギャル氏(奥/右)、マーケティング部 デジタルマーケティング プロジェクトリーダー 西村敏雄氏(奥/左)

(参考)2011年10月取材時の記事: 【企業担当者に聞くSMM最前線】リーデル(RSN JAPAN 株式会社) 西村 敏雄氏(1/2)

高いエンゲージメント率維持の裏側には緻密な分析がある

――1年前の取材時にまだ3,000名だったファンが、現在は既に47,000名を超えていますね。ファンが増えるだけでなく、ファンの温度感が上がってきた実感もおありですか?

西村:はい。リーデル・ジャパンのFacebookページでは、ファン数が増えるだけでなく、ファンからのエンゲージメント率もきちんと上がってきています。現在は1つの投稿につき平均8~10%くらいの反応を頂いており、直近の投稿は10%を超えることも多くなりました。ファン数が増え、温度感も上がり、ここから何かできそうかがちょうど見えてきたタイミングだと思っています。

――高いエンゲージメント率を維持する秘訣は何でしょうか?

アンギャル:とにかくコンテンツの品質にこだわっていることです。

他のFacebookページではなかなかタイムラインを見に来てもらえないこともあると聞きますが、リーデルのタイムラインにはファンが訪れてくれている感覚があります。一つの投稿の前後に同じファンがいいね!を付けていってくださることもあり、「他にももっと見てないコンテンツがあるのではないか?」とファンが期待してくださっているのではと思いますね。

RSN JAPAN株式会社 代表取締役社長 ウォルフガング・Jアンギャル氏

西村:もちろん、ある程度分析も行いました。ちょうど1年前の2011年11月頃、リーデルのFacebookページを開設して半年後位に、過去の投稿を全て分析する試みを実施しました。過去の投稿内容を、画像、文章に分けての分析はもちろん、同じ「画像」でもどんな種類の画像の反応がよいのか、また「文章」でも感情が入っている文章がよいのか、あるいは提案型がよいのか、質問が入っているのがよいのかなど、全て分類して分析を行ったのです。

その結果、要素はおよそ12パターンくらいに分かれ、その中の3~4要素を入れて投稿すると、よい反応が得られる傾向にあることが分かりました。

今はもう、大体の成功パターンが見えているので、ここまでの分析はやっておらず、週2回の投稿時にこのパターンからあまり大きくそれないように運用しています。もちろん、この成功パターンに縛られすぎるのは望ましくありませんけどね。

――この1年でソーシャルメディアを運用する社内体制に変化はありましたか?

西村:メンバーとしてはこの1年で変化はありません。予算的にも特に増やすようなことはしていませんね。現在も、昨年同様、ワインに詳しい「エデュケーター」とPR担当を合わせて5名で運営を担当しています。今後はここにマーケティング担当も入ってやっていこうかという相談はしています。

ただ、1年前から変化した点としては、Facebookページへの投稿を私に集約した点です。それまでは、ブログを執筆したエデュケーターがFacebookページも投稿する、というようなことも、試行錯誤の中で行っていたのですが、やはりブランドとしてのトーンや見せ方の統一を行う必要があると判断しました。

アンギャル:社内体制に関しては、全てを一か所でまとめないとロスが発生すると考えています。全ての戦略を一か所に集め、ナレッジを溜めていかないことには、情報も社内体制もバラバラになってしまいます。

社内外で「期待度」「認知度」の向上を実感

――社内の他部署からの期待も増えてきたのでは?

西村:1年前に比べると期待はされていると思います。特に、セミナーなどのすぐに結果に結びつくものは期待されているかもしれませんね。ただ、もちろん何でもやればいいということではありません。社内からの依頼は増えていますが、できるだけお客様に喜んでいただけるものに絞るようにしています。

また、投稿する際の出し方にも気を遣っています。例えば、リーデルでは「セミナーの告知です」というストレートな書き方はなるべくしないようにしています。それがベストかどうかは分からないのですが、その方が今の時点ではいいように感じていますし、結果も出ています。あの1つの投稿をするのに、私たちなりに工夫を凝らしており、社内調整も行っています。

Riedel Japan Facebookページ セミナーに関する過去の投稿事例

――店頭などの現場でも効果は実感されていますか?

西村:ブランドの認知度はあがっていると思います。店頭や、取引先からも「Facebookページ見ました」という声が聞こえてきますね。また、実際に会社としての売上も伸びてきています。

――かなり実際の効果が上がってきているのですね。会社としては、このFacebookページの取り組みを、どのように評価しているのでしょうか?

アンギャル:Facebookページは自社メディアの一つです。コンテンツを作るのに、マンパワーもクリエイティビティも必要とされ、手間もお金もある程度かかりますが、それ以上に消費者と直接、リアルタイムにコミュニケーションを取れることのすごさを実感しています。

これからソーシャルメディアは絶対に伸びていきます。もちろん、雑誌やテレビなどのペイドメディアも重要ですが、それらはコントロールできないものです。一方で「アーンドメディア」であるソーシャルメディアは、ペイドメディアに比べてマンパワーがかかる代わりに、コンテンツの全てが資産として自社に残ります。投資の観点で考えれば、今ソーシャルメディアに投資することが将来につながると評価しています。

今後のテーマは「ローカライズ」

――今後、ソーシャルメディアを通じてやってみたいことはありますか?

西村:もっとローカライゼーションを進めていき、エリアごとのコミュニティを作っていきたいと思っています。

今は、テイスティングを体験できるワインセミナーも、どうしても大都市圏に集中してしまっているという事実があります。つまり、今までお話してきたFacebookページによる効果も、あくまでも「東京」での成功事例なのです。今はまだ、地方では同じことができていません。

今後は、例えば大阪の方同士でコミュニケーションが始まり、その中でワインに関する話題が繰り広げられていて、たまにリーデルがそこにおじゃまさせていただく、という形が理想かな、と思っています。大阪版Facebookページとか(笑)、地方ごとに面白いことができるのではないかと思うんです。住む地方によって価値観は変わりますから。

RSN JAPAN株式会社 マーケティング部 デジタルマーケティング プロジェクトリーダー 西村敏雄氏

アンギャル:「美味しいお店がある」という情報にしても、ローカル情報の方がより親しみを持てるでしょう。将来的には「村」単位までのローカライゼーションも出てくるかもしれないですね。

西村:今はまだFacebookの機能では限りがあり難しいかもしれませんが、今後のステップとして、ぜひ「ローカライズ」にチャレンジしていきたいですね。

アンギャル:リーデルの例からもわかるように、これからのデジタルマーケティングは今よりもっと細かく、individualに、そしてローカライズされていくのではないでしょうか?その一方で、アテンションを取るためのマスマーケティングは、もっともっとジェネラルなものになっていくのでしょう。

ただ、いずれにせよ大切なことはやはり「コンテンツ」であることに変わりありません。いくら「デジタル」あるいは「マス」とは言え、それらはあくまでもツールであり、中身は全て「オフライン」、「リアルワールド」から来るものなのですから。

<インタビュー後記>

昨年取材時から約一年が経過、ファン数も順調に伸び、高いエンゲージメント率を維持しているRiedel Japan Facebookページ。その背景には、一年の間に繰り返された数々の試行錯誤と、そこから導き出された確固たる運営ポリシーがありました。「ワインについてのおしゃべりができるコミュニティ」として、Riedel JapanのFacebookページが今後どんな進化を見せるのか?、とても楽しみです。