コンピュータアーキテクチャ研究の一環として古い動体コンピュータを収集
東京大学(東大)大学院 情報理工学研究科の平木敬 教授の研究室が「コンピュータ動物園(Computer Zoo)」を運営している。古い、動かないコンピュータを展示するコンピュータ博物館は、あちこちにあるが、平木研究室のComputer Zooはコンピュータを動く、生きた状態で飼うという点が大きく異なる。
平木先生の研究分野は「超高速計算システム・アーキテクチャ」で、計算・通信の高速化をハード、OS、コンパイラの視点から実現することが研究テーマである。このComputer Zooも過去のコンピュータの性能や消費電力のデータを取るというアーキテクチャ研究の一環である。
古いコンピュータの性能測定データは公表されたものもあるが、測定条件がまちまちであるし、消費電力が大きな問題になる以前の時代のコンピュータでは、電力のデータが無いものが多いという。生きているコンピュータを使って再測定を行えば、これらの問題は解決する。
現在、Computer Zooでは、このリストのように、合計173台のコンピュータと5台のゲームコンソールを持っており、全体の95%程度のマシンが動く状態であり、残りも修理していくという。
Computer Zooであるが、現在は、理学部7号館の402号室にあり、室内にはコンピュータが積みあがって置かれている。まだ、本物の動物園のように、一般の人が観覧できるような環境は整備されておらず、まずは、Webにマシンの写真を掲載するなどで、見やすい環境を整備していくという。展示場所が欲しいところであるが、場所の確保は園長である平木先生のアクションアイテムになっているそうである。
これらのコンピュータは大学内の他の研究室で不要になったものを貰い受けたり、ゴミ箱から拾って来たりして集めたものが大部分で、収集にはお金は掛っていないという。しかし、捨てられたコンピュータは故障して動かないものが多い。これを博士課程1年の泊久信氏が一手に引き受けて修理して動く状態にしているという。泊氏は、研究室だけでなく、自宅にマシンを持ち帰って修理するというマニアで、平木先生は、修理屋で食べていけると太鼓判を押していた。
コンピュータの故障原因第一位は電解コンデンサの不良
泊氏によると、コンピュータの故障は電解コンデンサの故障が多く、故障したコンデンサの交換で直るものが多いという。また、故障した電解コンデンサが電源をショートさせて、電源が壊れているというケースも多いという。これらの修理で直らない場合は、部品の交換が必要となる。ということで、交換部品をストックしている。
このようなコンピュータの実測から、性能の年次推移として1995年ころに性能向上のペースが鈍化したことが分かったという。しかし、このスライドは、2011年5月のSACSISで発表されたものであり、1995年以前のマシンにRISCプロセサのマシンが含まれていなかった。その後、RISC系のマシンのデータを付け加えると、1995年以降の傾向を時間を遡って延長した線に載ってきたとのことである。
消費電力については、2004年ころまでは増加を続けたが、PCという製品にするための電力枠から頭打ちになり、その後はほぼ横ばいの状態が続いている。
このように電力は頭打ちになったが、性能/電力は順調に指数関数的な改善が続いているという。
外国製コンピュータを中心に寄付を募集中
この傾向を延長すると、ExaFlopsマシンが登場するはずの2018年には12倍程度の改善しか見込めず、このままでは膨大な電力を必要とし、実現は難しいという。
確かに、このようなデータを条件のそろった測定で取得するには生きたコンピュータを集める必要があるが、Computer Zooで飼育するには、故障したコンピュータハードウェアを動くように修理するたけでなく、OSやコンパイラなどのソフトウェアも収集し、マニュアルなども読み込んで、使える状態にしておく必要があり、大変な作業である。得られる成果に比べて、手間が掛りすぎませんかと質問してみると、平木先生の答えは、4/5くらいは趣味とのことであった。
現在の飼育コンピュータは日本製が多く、外国製のものは少ないのでMicroVAXやATARI、AMIGAなどの寄付を求めている。それ以外でも、古いコンピュータをお持ちで寄付しても良いという方は、泊氏にコンタクトして戴きたい。
Silicon Darwinism: How the Computer Zoo is Charting the Future of CPUs |