生理学研究所(生理研)は12月6日、慢性疼痛時には、一次体性感覚野(S1)興奮性細胞のKCC2発現減少によりGABAの抑制力が減弱するため、抑制性細胞過剰活動によりGABA放出が増加するものの興奮性細胞の過剰活動を完全に抑制することができず、疼痛行動が惹起されることを明らかにしたと発表した。
慢性疼痛は中枢神経系における神経細胞の異常活動によって生じており、近年、脊髄のみならず、S1を含む大脳皮質も慢性疼痛処理に関与することが分かってきた。特にS1において興奮性神経細胞が過剰活動することで慢性疼痛行動が惹起されることは明らかにされていたものの、S1興奮性神経細胞活動を制御する抑制性神経細胞の活動がどのように慢性疼痛に関与するかは不明のままであった。そこで、研究チームは今回、先端の2光子顕微鏡などを組み合わせてS1抑制性神経細胞の慢性疼痛における役割の検討をした。
麻酔下のマウス脳内のS1抑制性細胞活動を実際に2光子顕微鏡で観察したところ、慢性疼痛群では正常群に比べてその活動が亢進していることが確認されたほか、慢性疼痛群では抑制性細胞による興奮性活動抑制作用も正常群に比べて亢進していることが確認された。
また、S1のGABA受容体機能を薬物投与で抑制したところ、疼痛行動が亢進し、GABA受容体機能を亢進すると疼痛行動が減弱することも確認。このことから抑制性細胞による抑制力増大は疼痛行動を部分的に抑制するものの、完全に抑制するには不十分であることが示唆された。
このメカニズムについて検討を進めたところ、疼痛モデルにおいて、興奮性神経細胞でGABAの抑制力を制御するクロライドの濃度が増加し、クロライド濃度を制御するトランスポーターKCC2のタンパク発現が低下していることが判明した。
これらの結果により、慢性疼痛時における疼痛行動が惹起される仕組みが明らかとなったことから研究チームでは今後、今回の成果が大脳皮質一次体性感覚野に着目した新しい慢性疼痛治療法の確立の一助となるものとの期待を示している。