東北大学(東北大)は12月5日、独自開発の多層膜ミラー光学系による顕微鏡を用い、16nm世代用EUVリソグラフィ用マスクを高い空間分解能で観測することに成功したと発表した。

同成果は、同大 多元物質科学研究所 豊田光紀助教らによるもの。詳細は、「第25回マイクロプロセス・ナノテクノロジー国際会議(MNC 2012)」および、応用物理学会の欧文誌「Applied Physics Express」で発表された。

半導体デバイスの高性能化には、デバイスを構成する回路パターンの微細化が欠かせない。回路パターンの微細化には、リソグラフィの高解像力化が必要で、その解像力は使用する波長に比例する。現在、回路パターンの微細化を進める次世代技術として、波長13.5nmの短波長の極端紫外線(EUV:Extreme Ultraviolet)を用いるEUVリソグラフィが注目されている。EUV領域では、可視域でのガラスのような透明な物質は存在せず、レンズを使用することはできない。このため、EUVリソグラフィでは、縮小露光用の光学系をはじめ、回路パターンの原盤となるマスクまで、すべてミラーで構成する必要がある。

反射型マスクの開発では、マスク上に僅かに存在する微細欠陥(直径数10nm)が大きな問題となってくる。マスク上に欠陥が残留すると、半導体デバイスに焼き付ける配線パターンが変形や断線し、半導体デバイスが誤動作や故障してしまう。欠陥の影響を正しく評価するには、マスクの動作するEUV領域でマスクの反射像を精密に顕微観察する必要があるが、これまでに実現された検査用の顕微鏡システムは、像の分解能が不足して欠陥の影響がボケて観測されたり、一度に検査できる視野が数μm角程度と小さかったりなど、150mm角程度の大きな面積を持つマスク上に僅か数個程度残留する欠陥を、正確に評価するのが困難であった。

図1 EUVリソグラフィマスクの断面図。マスク上に欠陥(赤丸)が残留すると、焼き付ける回路パターンに変形や断線が生じ、半導体デバイスが故障する

同大 多元物質科学研究所 先端計測開発センターでは、波長2nmから30nm程度の軟X線やEUV領域で高い反射率を実現できる、多層膜ミラーの研究開発を20年以上にわたって行ってきており、世界最高クラスの反射率を実現した実用的なミラーなどを開発してきた。今回の研究では、そうしたEUV用ミラー技術をリソグラフィ用マスクの検査技術開発に応用し、マスク検査用顕微鏡システムを開発した。同システムは7枚のMo/Si多層膜ミラーを最適な配置で組み合わせることで、160μmを超える視野を、30nm程度の空間分解能で一度に観測することが可能となっている。

図2/図3はEUVリソグラフィマスク上に描画したテストパターンを波長13.5nmのEUV光で観察した例で、広い視野内で、次世代デバイスへの適用が予定されている22nm世代用パターン(線幅88nm)が明瞭に観察できることを確認することができる。また、次々世代となる16nm世代以降のパターン観察において、10nm世代(線幅40nm)のテストパターンも十分なコントラストで観察できることも確認したとしている。

図2 開発されたEUV顕微鏡の全視野像。リソグラフィマスク上のテストパターンを波長13.5nmのEUV光で観察した。破線の白丸が光学系の全視野(直径160μm)を表している

図3 22nm世代用テストパターンの観察例。白線部がEUVの強度が大きいマスクの開口部を示す。白線の幅は88nmで、露光装置により1/4に縮小焼付けされ、半導体デバイス上で22nm幅の配線パターンとなる

なお研究グループでは今後、同システムの高い結像特性を生かして、マスク上に存在する様々な欠陥を観察し、EUVで見た欠陥像の定量的評価をEUVL基盤開発センターおよび兵庫県立大学と共同で推進する予定としており、これにより得られたデータを16nm世代以降のEUVリソグラフィの実現に向けた基礎データとして活用するとしている。

また、今回の研究では、光源に兵庫県立大学のNewSUBARU放射光施設を用いているが、こうした放射光光源は、強力なEUV光を安定して出力する優れた特性を持つものの、EUV光の発生には巨大な加速器が必要となることから、今後は実験室規模で手軽に利用することを目指したシステムの小型化など、EUV顕微鏡の実用化に向けた研究開発を進めていくとしている。