九州大学(九大)は、マンネンタケ科のキノコであり、古くから和漢薬や民間薬に用いられ、数々の薬効が伝承されている「霊芝(Ganoderma lingzhi)」(画像1)に含まれている薬理活性成分でラノスタン型トリテルペノイド類の「Ganoderic acid DM」(画像2)の標的生体分子がタンパク質「チューブリン」であり、その重合を促進することを見出したと発表した。
成果は、九大大学院 農学研究院の清水邦義助教らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、11月30日付けで英国のオンラインジャーナル「Scientific Reports」に掲載された。
霊芝の煎薬(エキス)には、数々の薬効が伝承されており、特に、がんに効くキノコとして珍重されてきた過去がある。中国の後漢の時代にとりまとめられた「神農本草経」に命を養う延命の霊薬として記載されて以来、アジア各国ではさまざまな目的で薬用に用いられてきた。
その効能を裏付けようと、世界中で多くの基礎研究が実施されており、霊芝の薬理活性に関する研究報告は、近年、増大している。その薬理活性は、含有される「β-グルカン」に代表される多糖類と、特徴的な構造を有する「ラノスタン型トリテルペノイド」類に由来するという。
前者に関しては、免疫を高める効果について多岐にわたって研究報告されているが、後者に関しては、なぜ肝臓保護、解毒、抗酸化、抗菌、血糖降下、抗HIVとヘルペスウイルス、腫瘍細胞抑制などのさまざまな薬理活性を示すのか不明だった。
清水助教らは、霊芝の前立腺肥大症や骨粗鬆症に関する改善効果を見出し、その活性成分の1つとして、Ganoderic acid DMを本キノコから単離。同化合物は、その後、ガン細胞の増殖の抑制効果など、さまざまな薬理活性が報告されたのである。
しかしその作用機構については、不明な点が多く残されていた。そこで、今回の研究ではGanoderic acid DMに着目し、その作用機構解明を目指して標的タンパク質の同定が試みられた次第だ。
清水助教らは、作用機構解明の重要な手がかりは、Ganoderic acid DMの標的分子にあると考えた。そのために、Ganoderic acid DMの誘導体を化学的に調製し、それらの前立腺ガン細胞に対する増殖抑制効果を比較。
その結果、側鎖のカルボキシル基を有する部分構造は、活性発現には、重要ではないことが明らかとなり、その知見を用いて、標的タンパク質探索のためのプローブを調製し(画像3)、前立腺ガン細胞由来のタンパク質との相互作用が検討された。
その結果、チューブリンと強く相互作用していることが見出された。チューブリンは真核生物の細胞内にあるタンパク質であり、微小管や中心体の形成に重要な役割を担う。そして細胞増殖や分化、細胞内物質輸送など、多岐にわたる機能を有することが知られている。
また、抗ガン剤として用いられている「コルヒチン」や「タキソール」などのターゲットだ。コルヒチンは微小管の解離を促進し、タキソールは逆に微小管を極度に安定化させて正常な細胞分裂を阻害する。
そこで、Ganoderic acid DMのチューブリン重合に対する影響が調べられたところ、チューブリンの重合を促進することが見出されたというわけだ(画像4)。今回の知見は、未だ不明な点が多く残されている霊芝トリテルペノイドの多岐にわたる機能発現メカニズム解明の重要な手がかりになることが期待されるという。
日本の医療費は増加基調が続いており、高価な医薬品などに替わる、安価で安全かつ薬効を有する天然素材による治療・予防法の開発が望まれている。古来よりさまざまな機能性が知られている霊芝などのキノコの薬効の分子機構解明による科学的エビデンスの蓄積は、近年、益々重要となっている状況だ。
今回の研究成果は、未だ不明な点が残されている霊芝の薬効解明の分子メカニズムの新たな道を切り開くのみならず、霊芝のような機能性を有する天然素材の科学的根拠に基づいた機能性食品の開発にも貢献することが、期待されるとしている。