森永乳業は、東京医科歯科大学小川佳宏 教授との共同研究として進めている、胎児期から乳児期の栄養環境に応じた代謝遺伝子の調節機構と、栄養素・食品成分の果たす役割の解明の一環として、マウスを用いた研究において、肝臓の脂肪合成に重要な遺伝子「GPAT1遺伝子」が、栄養環境に応じ、エピジェネティクス調節されることを見出したと発表した。

同成果の詳細は米学術誌「Diabetes」のほか、10月11~12日に開催された「第33回 日本肥満学会」でも発表された。

幼年期に体内に取り込まれる栄養素の多くは、栄養源であると同時に遺伝子のはたらきを調節し、正常な発育に欠かせない役割を担っている。乳幼児期における栄養環境の変化の1つである離乳は、脂肪豊富な乳から炭水化物主体の食事へとエネルギー源が変化することとなる。これに対し、肝臓の脂肪合成は乳からの脂肪供給の減少を補うために離乳後に増加。そうして肝臓で合成された脂肪は全身の大切なエネルギー源となる一方、その異常が成人期のメタボリックシンドロームなどの代謝疾患に繋がると考えられている。

これまで乳児期~離乳後の脂肪合成制御の詳細は不明であったが、今回、研究グループは栄養環境に応じた代謝遺伝子のエピジェネティクス調節が関与することを想定、その解明に取り組んだ。

具体的にはマウスを用いた解析により、脂肪合成に重要な代謝遺伝子「GPAT1 遺伝子」が、乳仔(ヒトの乳児に相当)の肝臓では、エピジェネティクス調節の一種であるDNAメチル化される割合が高い一方、離乳後はDNAメチル化が低下していることが確認されたほか、対照的に、GPAT1遺伝子のはたらきは乳仔では非常に低い一方、離乳後にはたらきが急増していることが確認された。

離乳後のGPTA1遺伝子のDNAメチル化とはたらきの変化

また、試験管内で肝臓の細胞中のGPAT1遺伝子を人工的にDNAメチル化したところ、GPAT1遺伝子のはたらきが減少し、脂肪合成量が著しく減少することも確認したという。

GPTA1遺伝子をDNAメチル化した細胞の脂肪合成変化

これらの結果から、以下の2つの事柄が示唆されることとなった。

  1. GPAT1遺伝子は乳仔期にはDNAメチル化が高く、はたらきが抑制されている。これにより乳仔期の脂肪合成は低い
  2. 離乳期には、GPAT1遺伝子のDNAメチル化が減少し、遺伝子のはたらきが増加する。これにより離乳期は脂肪合成が増加する

さらに、栄養環境による違いとして、妊娠・授乳期間の母マウスにジャンクフードを模した高脂肪・高ショ糖食を与え栄養環境を変化させる実験を実施したところ、母マウスが出産・授乳した乳仔マウスは、GPAT1遺伝子のDNAメチル化が減少し、遺伝子のはたらきが増加することが確認された。

母マウスの栄養環境の変化と仔マウスのGPTA1遺伝子のDNAメチル化変化

これは母マウスの栄養環境の変化が胎盤や母乳を介して仔マウスに伝わり、これに適応するために乳仔マウスのGPAT1遺伝子のDNA メチル化が変化したと考えられるとしており、これらの点から、GPAT1遺伝子のDNAメチル化による調節が乳仔期~離乳後の栄養環境の変化に適応するための仕組みの1つであることがうかがえるとしている。

乳仔期~離乳後の肝臓の脂肪合成変化とGPAT1遺伝子のDNAメチル化の変化

なお、研究グループでは、胎児期~乳児期に経験した栄養環境が成人期に発症するメタボリックシンドロームなど代謝疾患のなり易さに後天的に影響する可能性が提唱されており、その仕組みに代謝遺伝子のエピジェネティクス調節が関与することが想定されているが、これまでその実態は不明であり、今回の研究成果を踏まえた胎児期~乳児期の栄養環境に応じた代謝遺伝子の調節機構の解明を進めていくことで、その理解に繋がっていくことが期待されるとしている。