水産庁は11月27日、昨年度(2011年度)に引き続いて平成24年5月から9月にかけて、水産総合研究センター、水産大学校、石川県、鳥取県、島根県、山口県、鹿児島県および沖縄県と共同で、産卵場の特定および初期生態の解明を目的として、太平洋クロマグロの主要な産卵場である日本海および南西諸島沖で、仔稚魚の採集と水温、海流などの調査を実施し、産卵場の特定などに有意義な知見が得られたと発表した。

まず、仔魚調査の結果について。リングネットによる仔魚(ふ化後20日未満、体長1cm未満の個体)採集調査が行われ、マグロ属仔魚1158尾が採集された。形態から種査定された結果、その内の太平洋クロマグロ仔魚は205尾と推定されている(今後、DNA分析により種を最終的に確認する予定)。なお、昨年度の調査の結果では、マグロ属仔魚579尾が採取され、太平洋クロマグロ仔魚はその内の125尾だった。

太平洋クロマグロの仔魚は、昨年同様、沖縄本島から宮古島周辺海域にかけて採集されたものに加え、今年は、特に石垣島から与那国島南沖などでも多数(203尾)が採集された(画像1)。

一方、日本海では少ない。太平洋クロマグロの仔魚は、昨年同様、隠岐諸島東沖では2尾が採集されたが、能登半島西沖では採集されなかった(画像1)。

続いて、稚魚調査の結果について。表中層トロール網を用いて南西諸島沖で稚魚(ふ化後20日から1~2カ月頃、体長1~15cm 程度の個体)分布調査が実施され、合計78尾の太平洋クロマグロ稚魚(体長11.4~109.8mm:平均66.0mm)が採集された。昨年に引き続き、これらの稚魚は、屋久島西沖の黒潮流軸および北縁付近に高密度分布していることが判明(画像2)。

画像1。採集された太平洋クロマグロ仔魚の分布(平成24年5月~9月)。赤丸は1曳網当たりの採集尾数。写真は採集された仔魚(体長6.4mm)

画像2。採集された太平洋クロマグロ稚魚の分布(平成24年6月)。赤丸は1曳網当たりの採集尾数。写真は採集された稚魚(体長87.9mm)。水色線は黒潮流軸

仔魚調査についての見解として、昨年と今年の結果から、太平洋クロマグロの産卵場は、南西諸島沖と日本海で毎年形成されるものの、年による変動が大きいこと、また仔魚分布の中心は昨年推定された海域より南西にも広がる可能性があることが示唆されたとする。

今後、採集した仔魚のふ化後日数を分析し、海況予測モデルを用いて、ふ化後日数だけ海流を遡らせるシミュレーションにより、産卵海域および時期を推定すると共に、太平洋クロマグロの産卵場の海域特性を把握していくとした。

また来年も同様の調査を実施し、3年分の産卵場推定結果を集約することにより、太平洋クロマグロの産卵場の把握および資源の管理手法の開発に役立てていくことも併せて発表されている。

そして稚魚調査についての見解としては、昨年と今年の結果から、屋久島西沖の黒潮北縁に稚魚が集まる海域があることが確認され、南西諸島沖で生まれた稚魚が黒潮を北上し、屋久島西沖で分岐して、土佐湾、五島沖などの漁場に来遊することが推定された。

これらの調査により、稚魚の成長、食性、回遊など初期生態の解明に寄与する知見や、漁獲対象となる資源量を早期に把握する上で非常に重要な情報が得られたとしている。

来年は、南西諸島沖で生まれた稚魚が、屋久島西沖から九州西沖または太平洋に分岐し、漁場に来遊するメカニズムの把握に努め、将来的には来遊量を早期に把握するためのモニタリング手法を開発することにより、太平洋クロマグロ資源の持続的利用のための管理方策の策定に活用していくとした。

なお水産庁は、太平洋クロマグロの主産卵海域は、日本南西諸島沖と日本海であることから、これら海域における詳細な産卵場、産卵時期などを把握することは、資源の持続的利用のために必要不可欠だと述べている。