シュナイダーエレクトリックが、日本のBEMS(Building and Energy Management System:ビル・エネルギー管理システム)市場に本格参入する。すでに世界的に多くの成功事例を持っている同社が日本市場になぜこのタイミングで参入し、日本においてどのようなビジネス展開を狙っているのか、シュナイダーエレクトリック ビルディング事業部 バイスプレジデントである指原洋一氏に聞いた。

シュナイダーエレクトリック ビルディング事業部 バイスプレジデント 指原洋一氏

まず、これまで日本市場に対してシュナイダーエレクトリックがサービスを提供してこなかった理由として、指原氏は参入障壁の高さを指摘した。

「日本にはBEMSの分野で非常に高いシェアを持つ企業があります。これほどのシェアを持つ相手がいる市場に入るのは難しく、それよりももっと参入しやすい新興国に投資したいという考えがありました」と説明。

実際に同社のアジア諸国への投資は成功し、導入事例も数多く持っている。そして、ビルディング部門でこれまで投資対象から外されていた日本に目が向いたきっかけは、東日本大震災を契機とする国をあげての節電機運の高まりだった。

「3.11以降のエネルギー危機から、国が動き出しました。助成金なども用意し、本気でビルの節電に取り組むという流れができてきました。そこで、この市場に本格的に参入しようということになったのです」(指原氏)。

同社は日本でも50年にわたってビジネスを行ってきたが、従来は比較的物販に重点を置いていた。小型UPSは日本でも数多く販売されてきた実績がある。しかし、クラウドサービスが浸透してくるにつれ、UPS市場は企業からデータセンターへシフトしつつあり、近年は物販からソリューションビジネスへと転換してきている。BEMS市場への参入は、こうした流れにも合致していたという。

日本では「EMS」と「BEMS」の2つのサービスを展開

大きな省エネポイントである中小オフィスビルに注力

同社がビルディング事業のコアターゲットと考えているのは、中小規模のオフィスビルだ。住居用以外の民間のオフィスビルの中で、この規模のビルは日本に100万棟もあるという。日本は比較的節電、省エネルギーに熱心な国だが、指原氏によれば、この中小規模オフィスビルというのは、現在BEMSがほぼ手つかずの状態にあるという。

大手企業がビルを新築する場合、計画の段階からある程度BEMSへの導入を計画するが、中小規模のビルの場合はそれがほとんどない。理由は、日本には環境性能を向上させることで物件の価値を上げよういう思想がないためだ。

そこで、同社ではこういったビルに対して、状況を「見える化」する診断サービスを提供。具体的には、ビル・エネルギー診断とコンサルティング行う「Energy Management Service」と、エネルギーを見える化するツール「Energy Operation」を提供する。

「Energy Operation」による見える化

Energy Operation」のダッシュボード

「日本の家は木造が多く、数十年でスクラップ&ビルドするという考えがあります。一方ヨーロッパでは、家は石づくりで100年くらいは使うものという感覚ですから、建物の価値を高めようと時代に合わせて手を入れます。今後は、日本でも環境建築(グリーンビルディング)にすることで建物の価値が上がるという意識を持たせ、投資の意味づけをしっかりと行わなければなりません」と指原氏。

診断サービス等の提供についは、基本的に自社で直接行い、環境創世イニシアチブの募集するBEMSアグリゲータ(中小ビル等にBEMSを導入するとともに、クラウド等によって自ら集中管理システムを設置し、中小ビル等の省エネを管理・支援する事業者)についても、チャンスがあれば次期の募集にも応募したいとしている。

「診断した結果を踏まえ、次にどうするかは、ビルオーナーが決めることです。必ず我々の機器を入れてもらおうということではありません。まずは、電気代の請求書だけではわからない、系統毎の使用量やピークデマンドをしっかりと『見える化』することが重要だと思います。当初は収益が出づらいかもしれませんが、お客様のニーズを知ることは非常に重要なことだと考えています」と指原氏は語った。

照明・空調のさらなる効率化からスマートシティ構築まで

ただ同氏は、日本市場に対して楽観視はしていない。

「諸外国に比べ、日本人はとてもしっかりと節電しており、日本での取り組みは難しいかもしれません。空調設備はほとんどの中小ビル物件では個室空調になっており、状況に合わせた細かい調整が可能になっています。照明制御もグルーピングされており、ムダがありません。諸外国では診断して節電に取り組めば30%程度はエネルギー使用量を減らせるのですが、日本ではそこまでの効果は出ないかもしれません」と指原氏は語る。

そこで今後の日本に必要になるのは、個別空調やグリッド化された照明をより効率的にコントロールするための情報収集や制御・管理技術だという。

「人が少ない時には空調や照明を減らすために、人の出入りや現在の居場所を把握し、実負荷に合わせた建物設備の運転をするような取り組みが必要です。また、人が気にならない程度に空調を抑えるということもできます。ある程度冷えたら送風に切り替え、少し暑くなってきたなと感じる頃に冷房モードに切り替えるというような具合です」と指原氏。こうした取り組みはすでにシュナイダーエレクトリックの本社をはじめとする各拠点などでも実用されているという。

また新築時には目標とするエネルギー使用量の基準を満たす建物になるよう、あらかじめ計画するという考え方も必要だ。これについては建築業界でも近く義務化されるのではないかという声もある。

「日本の場合、これまで必ずしも多重窓や断熱性の高い外壁が積極的に採用されていないと思います。今後は建材やビル設備の選び方を更に注意して選定する必要があるのではないでしょうか」と指原氏も指摘する。

同社では、まずは診断や計測を行い、必要ならばデマンドコントロールや「SmartStructure」といったビルエネルギー管理・制御技術を提供し、更なる建物のエネルギー効率の向上を実現する。同社は積極的にオープンシステムを活用した、建物群管理やビルエネルギー情報を有効に活用できる技術も提供できる準備がある。

デマンドコントロールを可能にする同社の「SmartStructure」

送電等の効率向上に寄与する製品群も持っており、それらと組み合わせてスマートシティ構築のお手伝いをすることや、他国で既に実績もあるデマンドレスポンスが実現した場合にはその一角にも加わることも考えているという。

「そうしたものを実現するためには各建物へのエネルギー管理・制御システム(BEMS)の導入が必要になると考えます。日本では2013年1月から本格的なビジネス展開を行う予定です」と指原氏。

今後は、この分野で実績のある同社が、日本の省エネルギー政策に大きく貢献することが期待される。