国立環境研究所は11月15日、海外から鳥インフルエンザウイルスが侵入するリスクの高い国内地域を予測するマップを作成したと発表した。
同成果は同研究所 生物・生態系環境研究センターの森口紗千子 特別研究員、同 大沼学 研究員、同 五箇公一 主席研究員らによるもので、詳細は国際学術誌「Diversity and Distributions」オンライン版に掲載されたほか、雑誌版にも掲載予定。
インフルエンザウイルスの中でも、特に鳥類に感染するウイルス「鳥インフルエンザウイルス」は、渡り鳥によって運搬されていると考えられ、特にカモ類の保有率が高いとされている。通常、家禽類に対する病原性は低いが、中には高い病原性を示すタイプのもの(高病原性鳥インフルエンザウイルス)があり、同ウィルスは家禽類に対しても大きな被害をもたらすことから、世界的にも家畜生産上の大きな問題となっている。
日本でも、鳥インフルエンザウイルスによる家禽類の被害が問題となっているほか、希少鳥類に感染することによって、その絶滅リスクが高まることが懸念されており、将来にわたり鳥インフルエンザウイルスの侵入・拡大に対するモニタリングを強化し、被害を未然に防ぐリスク管理体制を構築することが必要とされている。
そうした状況を踏まえ研究グループは、鳥インフルエンザウイルス侵入のリスク管理の一環として、どの地域に鳥インフルエンザウイルスが侵入するリスクが高いのかを予測する方法として、同ウイルスが渡り鳥によって運ばれることに着目し、野鳥の鳥インフルエンザウイルス発生地点を、標高や土地利用などの環境条件や宿主となるカモ類の個体数データに基づいて推定する分布予測モデル(リスクマップ)の作成を行ったという。
この結果、ウイルスの自然宿主とされるマガモなどの植物食のカモ類の個体数が多い地域ほど侵入リスクが高くなるという結果が得られたほか、今回得られた予測結果を過去5年間の鳥インフルエンザウイルス陽性地点データと比較したところ、侵入予測エリアは実際に陽性反応が検出された地域を確実にカバーしており、予測の信頼性が高い事も分かったという。
研究グループでは、同マップに基づき、鳥インフルエンザウイルスの侵入リスクが高い地域のモニタリングを強化することで、国内へのウイルス侵入の早期発見に結びつくことが期待されるとコメントしているほか、これまで、どのような経路で渡り鳥などの野鳥から家禽類へウイルスが感染するのかは不明のままであるが、何らかの媒介生物(小型の野鳥、ネズミ類など)がウイルスの拡散に関与していると推測されることから、リスクが高いと予測された付近の養鶏場は屋外からの媒介生物の侵入防止策を含む防疫対策を徹底する必要があると考えられると説明している。
なお、今回の結果は、あくまでも「渡り鳥を含む野鳥」から鳥インフルエンザウイルスが検出される可能性が高い地域を示したものであり、「養鶏場の家禽類」から鳥インフルエンザウイルスが検出されるリスクが高い地域を示したものではないとも研究グループは注意を促しており、養鶏場における鳥インフルエンザウイルス感染リスクの評価のためには、さらに詳細な調査を進める必要があるとも説明している。