三菱重工業(MHI)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、放射性物質の分布状況を可視化することが可能なカメラ装置「放射性物質見える化カメラ」のプロトタイプ機「ASTROCAM7000」を開発したことを発表した。

同カメラはJAXAが中心となって開発し、2012年3月に発表された放射性物質の見える化カメラ「超広角コンプトンカメラ」をベースに改良したもので、感度、画像、視野角などを向上させたものとなっている。

超広角コンプトンカメラの原理などについては、デイビー日高氏のレポートに詳しいので、そちらを参照してもらいたい。今回のASTROCAM7000は、コンプトン散乱の原理を応用し、ガンマ線を検出することにより放射性物質を可視化することを可能とした。実際に放射線の飛来方向とそのエネルギー(波長)をリアルタイムで同時に測定することが可能で、放射性セシウム134(Cs-134)、同137(Cs-137)、放射性ヨウ素(I-131)などのガンマ線を放出する物質の識別ができる。

コンプトンカメラの原理など、およびASTROCAM7000の特長

超広角コンプトンカメラに比べて、センササイズの大型化、ならびにセンサ枚数を増やしたことで高感度化を実現。これにより超広角コンプトンカメラの際に問題とされた撮影時間の大幅短縮が果たされたという。また、冷却機構の小型化も実現、システム全体で7-8kg程度の重量とすることで、手で持ち運ぶことが可能となった。

こうした知見は、JAXAとMHIに名古屋大学(名大)を加えた開発チームが、科学技術振興機構(JST)の「先端計測分析技術・機器開発プログラム」の1つとして各種技術の研究開発などを行った成果が転用されており、その研究開発を進めつつ、福島第一原子力発電所の事故で飛散した放射性物質の影響を受けている地域などでの、早期の除染などを実現することを目的とした商用機「ASTROCAM7000HS」へと展開が進められている。

商用機となるASTROCAM7000HS(ハイスピード)は試作機から、さらにMHIが得意とする半導体の高密度実装技術などを駆使することで、多数のセンサの高精度積層によるセンサ感度の向上による測定時間の短縮を実現。具体的には、ASTROCAM7000で10分程度かかっていた測定時間(具体的な測定時間はセンサの積層枚数により変化する。枚数が増えれば増えるほど、散乱ガンマ線を検出しやすくなるため検出時間は高速化する)を1/10の1分を切る程度を目指すという(センサの枚数としては散乱4枚、吸収4枚の合計8枚が基本になるとのこと)。

また、冷却機構の搭載による測定時間の延長の実現(冷却しないと熱がノイズとなって測定が難しくなる)が図られるほか、見た目にもスタイリッシュなものへと変更される予定(外形寸法は285mm×200mm×375mmを予定)。そして、操作性を意識した測定用ソフトウェアも提供される予定で、最終的にはカメラを設置して、機器操作などのトレーニングを受けていない人でも、ボタン1つ押すだけで、どこから放射性物質が放出されているか、などを見えるようにしたいとしている。

ASTROCAM7000HSの概要

発売は2012年度内を予定しているが、このソフトウェア部分については、初期モデルに搭載できるかどうかはまだ不明とのことである。気になる価格だが、数千万円台になるであろう、とのことで、電力会社や自治体などを中心に提案を行っていくとする。

また、短期だけ利用したい、などのニーズに対応するためにリースでの提供も対応していく予定だとのこと。

価格そのものは非常に高いが、半導体センサ部分がかなりの比率を占めているとのことで、この枚数を増やして感度をさらに向上させたモデル(当然価格は高くなる)や、枚数を減らし、感度を下げて価格も下げるモデルなども考えられるとのこと。1分を切ることができれば、電力会社や自治体のほか、食品分野で出荷前の全数検査などもできる可能性も出てくることから、かなり広い分野での応用が期待できそうだ。

ASTROCAMの外観

ASTROCAM7000HSのイメージ画像 (画像提供:三菱重工業)
放射線の見える化試験の様子(wmv形式 4.42MB 45秒)(提供:三菱重工業)