東京大学(東大)は、太陽系外にある4重惑星系候補である「KOI-94(Kepler Object of Interest:カタログの94番)」を2012年8月10日にすばる望遠鏡で観測、内側から3番目に位置する惑星の公転軸と中心星の自転軸がほぼ平行であることを発見したと発表した。
これは2つの惑星の公転軌道面がほとんどぴったり一致していない限り説明できないことが推測できる。そこで、実際に観測データを詳細に解析した結果、この2つの惑星は同じ向きに公転しており、それらの公転軌道面は2度以下の精度で一致していることがわかった。さらにすばる望遠鏡の観測結果と組み合わせれば、太陽系と同じく、中心星の自転軸と、複数の惑星の公転軸が高い精度で揃っていることが結論づけられた。
この発見は、複数惑星系の形成・進化モデルに対する重要な観測的制約である。また、今から約14年後(西暦2026年)に、この系において惑星同士の食が起こるものと予想される。
同成果は同大大学院理学系研究科 物理学専攻 博士課程3年の平野照幸氏、同1年の増田賢人氏、同物理学専攻の須藤靖 教授らの研究グループによるもので、米国天体物理学雑誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。
太陽系外惑星は1995年に初めて発見されて以降、現在までに800個程度発見されている。その発見手法としては主に2つあり、1つが惑星が中心星の回りを公転する反作用で中心星が周期的にふらつく速度をドップラー効果で観測する「ドップラー法」、もう1つが惑星が中心星の前面を通過する際に、中心星の一部が周期的に暗くなることを観測する「トランジット法」である。
トランジット法は、観測者がほぼ惑星の公転面上にないと観測できないため観測できる確率は低いものの、速度を検出するために必要な分光器が不要であるため観測そのものは容易であるほか、2009年に打ち上げられた米国のトランジット観測専用衛星「ケプラー」により、2000個以上のトランジット惑星候補が発見されるにまで至っている。
これらの候補はKOI-N(Kepler Object of InterestのN番目)という名前と番号がつけられ、その後ドップラー法などで実際にトランジット惑星であることが確認された場合、Kepler-N'という名前に変更される。KOIカタログには全部で365個の複数惑星系候補があり、そのうち約30個はドップラー法などを用いることで、すでに惑星系であることが確認されている。今回の対象となったKOI-94は、特に4つのトランジット惑星が存在すると考えられている複数惑星系候補で、複数の惑星がトランジットを起こしているということは、それらがほぼ同じ平面上を公転している可能性が高いと考えられていた。
そこで研究グループは中心星の自転軸と惑星の公転面の関係に注目して研究を進めた。太陽系では、水星を除く7つの惑星の公転面は約3度の範囲内で一致しており、かつそれらは(水星の公転面を含めて)太陽の自転軸と約7度の範囲内で直交している。実際、標準的な惑星形成モデルでは、中心星と惑星はともに、回転する円盤状のガス雲から誕生するため、中心星の自転軸と惑星の公転軸(公転面に垂直な軸)はそろっていることが予想されている。しかし、惑星系のその後の進化にともない、木星程度の比較的大きな惑星が中心に落ち込むことにより、複数の惑星同士の公転軸が大きく変動する可能性があることから、中心星の自転軸と惑星の公転軸のなす角度の推定ができれば、惑星系の進化に対する観測的制約を与えることが可能になる。
それを可能とするのがロシター・マクローリン効果(RM効果)で、1924年に2重連星系(2つの星が互いを周る系)に対して提案され、太陽系外の惑星系に対しては、2000年に同効果が初めて検出された後、2005年に研究グループが解析的に記述する近似公式を発表し、世界中で数多くの観測が行われるようになった。実際に研究グループでは、すばる望遠鏡を用いて、現在までに10個の系外惑星系に対してRM効果を検出している。しかし、それらはいずれもトランジット惑星が1つしか発見されていない系であり、これまで複数トランジット惑星系に対するRM効果の観測はされていなかったという。
そこで研究グループは、2012年8月10日(グリニッジ標準時)に、すばる望遠鏡でKOI-94の内側から3番目の惑星候補(KOI-94.01:公転周期22日)のRM効果の観測を実施。その結果、KOI-94.01の公転軸と中心星の自転軸とは約10度以内の精度でそろっていることが明らかになったほか、先立ってケプラー衛星の公開データを調べた際、KOI-94は、2010年1月14日から15日にかけて、ガス惑星KOI-94.01と内側から4番目のガス惑星(KOI-94.03:公転周期54日)が同時にトランジットを起こしており、かつそれら同士が互いに重なって見える食を起こしていたことも発見した。
ちなみにトランジットは、太陽系においては2012年6月6日に起こった金星の太陽面通過と同じ現象であり、その頻度(次回は2117年)からも、発生する確率がかなり低いことは知ることができる。また、水星も同じくトランジットを起こすが、その頻度は1世紀あたり13回~14回であり、金星と水星が同時にトランジットを起こすのは、西暦69163年7月26日と西暦224508年3月27日という状態だという。この確率からすると、KOI-94.01とKOI-94.03の同時トランジットも同様に非常に稀な現象であるといえるが、今回は観察では、その同時トランジット中にKOI-94.03がKOI-94.01を追い越し、途中で2つの惑星が重なって見える、いわば惑星同士の食まで起こしている現象まで観測されたという。
この現象の解析を進めたところ、すばる観測からKOI-94.01の公転軸と中心星の自転軸が、またケプラー衛星観測からKOI-94.01とKOI-94.03の公転軸が、それぞれそろっていることが発見され、その結果、この複数惑星系は、太陽系と同様に、中心星の自転軸と惑星系の公転軸がほぼそろっていることが初めて直接的に確認された例となったと研究グループは説明する。
これは既存の標準的な惑星形成モデルと一致しているように思えるが、木星サイズのガス惑星が12年周期の遠方に位置している太陽系とは異なり、わずか22日周期のごく近くにガス惑星が存在している点が新奇な点だという。これは、遠方で形成された惑星が、時間をかけて中心星近くまで移動したものと解釈できるという。
これまでに多数観測されているそのような系(ただし1個の惑星しかない場合)では、その移動中に中心星の自転軸と惑星の公転軸が大きくずれる場合があることが観測的に知られているが、今回観測された惑星系では、中心星近くにガス惑星が位置しているにもかかわらず、自転軸と公転軸との大きなずれはみられなかったとのことで、この結果とこれまでの結果の違いが、単独惑星系と複数惑星系の違いに起因するのか、あるいは単なる偶然なのか、現時点では説明する理論は存在しないという。
研究グループではそうした意味でも、この特別な系の発見は複数惑星系の形成・進化モデルに対して重要な観測的制約を与えるものだとコメントしている。
なお、同複数惑星系で惑星同士の食が次回観測できるのは、14年後の2026年であるという。