今年も10月22・23日にプリンスパークタワー東京ホテルで「Freescale Technology Forum(FTF) Japan 2012」が開催された。今年の参加者は2日間合計で3700名を超えており、盛況のうちに終了した。ちなみに当日の技術セッションのプレゼンテーションも、すでに入手可能となっている。
さてそのFTF Japan 2012であるが、プレゼンテーションには入っていないものとして、23日に行われた基調講演、それと基調講演の前に行われたプレスセッションの内容をまとめてご紹介したい。
基調講演
基調講演にはまずフリースケールジャパンのUze社長(Photo02)が登壇、スポンサーへの挨拶と、BEST DEMONSTRATION AWARDの発表を行ったのち、6月から本社のCEOに就任したGregg Lowe氏(Photo03)が登壇、同社の方針について説明を行った。
Photo02:フリースケールジャパン社長のDavid Uze氏。めっきり上手くなった日本語で挨拶を行った |
Photo03:6月にCEOに就任したばかりのGregg Lowe氏だが、このFTFの直後に行われた第3四半期の決算発表にあわせて、大きな組織変更を行った。この話は後ほど |
ただ今回の基調講演は、概ね米国のFTFの内容のダイジェストといった風情で、あまり新しい話がなかったのも事実。まず氏はFreescaleの戦略について、組み込みプロセッサを中心に、これを支える形でRF/Analog/SensorとSoftwareといった分野の製品/サービスを提供してゆくという基本路線をまず紹介した(Photo04)上で、NMSGのTom Deitrich氏(Photo05)にバトンタッチした。
Deitrich氏はまず、いくつかの数字を示しながら(Photo06)携帯電話のマーケットがトータルでどんどん増えており、データ転送量の増大に対応してLTEがどんどん普及しつつある事にまず触れ、これに対応して同社が今年7月に発表したQorIQ Qonverge B4420を紹介した(Photo07)。ついで、やはりネットワーク全体の数字を幾つか示しながら(Photo08)、このマーケットに向けてLayerscape Architectureを用意していることを紹介した。
Photo06:他にも、「2020年には500億個のデバイスがInternetに接続されている」話が紹介された |
Photo07:QorIQ Qonverge B4420はQorIQ Qonvergeの第1世代としては最後の製品にあたり、Metro cell向け(最大ユーザー数250)のソリューションとなる |
Photo08:これはCloud Computing化が進むことで、このマーケット規模が3000億ドルに達するという見込みを示したもの |
Photo09:Layerscape Architectureについてはこちらを参照 |
次いで登壇者はReza Kazerounian博士(Photo10)に変わり、まずは同社の提供するMCUプラットフォームの充実振り(Photo11)と、6月に発表されたばかりのKinetis-L(Photo12)の紹介を行った。
Photo10:自動車および産業機器向けその他のMCUやアナログ製品を統括する、AISG(Automotive,Industorial&Multi-Market Solution Group)のReza Kazerounian博士(SVP/GM, AISG) |
Photo11:ただ現状、S08(およびここに出てこないS12)は自動車用途向け専用、DSCはデジタル電源向け専用、PXシリーズは安全規格対応向け専用で、ColdFire+に至ってはASICおよび特定顧客向けという趣さえあり、その代わりとしてCortex-M4ベースのKinetisが恐ろしいほど幅広く展開されている形だ |
Photo12:従来はKinetis-Kシリーズを広く展開、2011年11月にハイエンドのKinetis-Xを追加し、さらに2012年6月のFTF AmericaにあわせてKinetis-Lと幅広いポートフォリオを展開、というこれもすでにレポート済みの話 |
さらにはKinetis-Lの低消費電力ぶりのデモも行われたのだが、FTF Americaの時にはアクリルのスタンドにほとんどバラ組み状態だった比較キットが、今回はスーツケースに収まるようにリニューアルしていたのが最大の相違点か(Photo13,14)。デモ(Photo15)およびその結果は6月のときと同じで、絶対的な消費電力もさることながら、絶対的な性能が高いため、Power Onとなっている時間が他のどのプロセッサよりも少なく、これが性能/消費電力比が高い理由であることを説明した。
Photo13:このスーツケースに4つの比較用MCUと、さらに消費電力の測定を行うTowerSystemなどが全部格納されている模様。上に突き出しているのは、スーツケースの中を測定するカメラで、これはスーツケースとは無関係 |
Photo14:こちらがスーツケースの内部を上から撮影したもの。4つのMCUが配されているのが判る |
Photo15:テスト結果。(FTF Americaの時とほぼ同じ結果になっているのが判る |
Photo16:Benchmark Resultのスライドは、もう少し解説が入ったわかり易いものとなった |
これに続き自動車部門はRay Cornyn氏(Photo17)が登壇、自動車部門の取り組みに関して説明を行った。といっても、自動車向けは幅広いラインアップがありすぎるので、すべてを紹介するのは無理だったためか、ややダイジェスト的なものになった。同社は自動車向けの課題としては省エネルギー、安全性、コネクティビティといったテーマを掲げているが、このうち省エネルギーに関しては、まだたくさん出来ることがあると示した(Photo18)上でPlug-in HybridやHybridといった方向がより効率を高めることを説明。こうした用途に向けて6月に発表したばかりの車載用Vybridを改めて紹介した(Photo19)。
Photo17:Reza氏の下で自動車向けを担当するRay Cornyn氏(VP/GM, Automotive Micro-Controller Division) |
Photo18:そもそもガソリンエンジンの効率はどんなに良くても30%程度で、さらに2%が補機類、6%がトランスミッションで消費されるなど無駄が多いため、実際の走行に使われるのは13%程度、という話 |
Photo19:車載用Vybridの詳細は福田昭氏のこちらの記事参照 |
またActive SaferyおよびConnectivityに関しても色々なソリューションがあることを示した上で基調講演を締めくくった。
プレスセッション色々
さて、続いてはCEOおよびAISG/NMSGそれぞれのプレスセッションの内容から、いくつかめぼしい話についてご紹介したい。まずCEOのLowe氏は、今後の同社の方針について、「数カ月に渡って分析を行っており、現在最終段階(Finalize)にある。近々発表予定だ」ということで、いよいよ本腰を入れてFreescaleの舵を取り始める用意があることを示した。また、ルネサス エレクトロニクスに産業革新機構が1500億円強、民間会社が500億近い出資をすることについては、Uze氏は「競争こそがInnovationを生むを我々は考えている」とし、出資そのものに関しては「そうした方法がうまくいった場合もあるし、うまくいかなかった場合もある。今は状態を注視している」と説明した。また東日本大震災以降の日本における動向としては、これもUze氏が「過去半年ほどの間、これまで海外の半導体メーカーの製品を考慮もしてくれなかった長岡とか広島、九州などの顧客が(使うことを)考慮してくれるようになった」と説明。災害によるサプライチェーンの途絶に対する対応が1つのきっかけになった、と説明した。
AISGでは、自動車向け安全規格であるISO-26262の対応についてCornyn氏が「ISO-26262の分野は各社が急速に対応を進めており、ここでの単純な差別化は難しい」としつつも「ISO-26262をちゃんと理解している自動車ベンダーに対しては、あまり提供できるものはないが、現状ほとんどの自動車関連製品ベンダーはまだISO-26262への対応に習熟しておらず、こうしたベンダーに対してトータルソリューションが提供できるのが強みである」と説明した。またやはりルネサスとのマーケットシェアに関してもCornyn氏は「ルネサスの状況は新聞などで読んで知っているが、これによってマーケットシェアがどう変わるかを説明できる立場にはない」とまず断った上で「我々は日本市場に求められる機能と、要求される品質を満たす製品を提供できる自信があり、これによってマーケットシェアを次第に握ってゆけると確信している」と説明した。
最後にNMSGであるが、幸いにもDeitrich氏とほぼ1:1に近い状態でしばらく話ができたので、少し本筋から離れた内容を。9月に開催されたIDFで、IntelはChina Mobileと共同でC-RAN(Cloud RAN)の取り組みを行っている話が紹介されたのだが、Freescaleはこれにどう取り組んでいるか? という話を伺ってみた(C-RANとは何か?というのはこちらの後半を参照)。これに対してのDeitrich氏の回答だが、「もちろんFreescaleは様々なベンダーやオペレータと共同でC-RANに取り組んでいる」とするものの、氏の個人的な見解としては「C-RANが有効に使えるためには、光ファイバー網がどれだけ充実しているかが1つの鍵となると思う。なので、インフラの整った都市部では有効だろうが、そうでない場合は難しい」とした。また「現状様々なベンダーやオペレータと話をしているが、C-RANのCenterlized RANの部分とNetwork部分をどこで切り分けるか、に関して現状一致した見解がない」とした。例えばFreescaleのソリューションで言えば、無線側にQorIQ Qonverge B4860を、Centerlized RAN側にQorIQ T4240を入れて間を光ファイバーで繋げばMacro scaleのC-RANが構成できるほか「また幾つかの顧客はエンタープライズ向けとして、無線側にPSC9131/9132を、AggregationにはQorIQ T4860という構成をとっている」と説明した。氏によれば、C-RANは幾つかのオペレータには有用だろうが、何でもこれでできるわけではないと思う、という話であった。
それとi.MXシリーズであるが、現状のi.MX6シリーズはCortex-A9ベースの製品である。この将来製品としてCortex-A15の可能性を伺ったところ「ARMのロードマップは常に確認しており、Cortex-A15ベースのi.MXファミリーについてもまだ発表は出来ないが、もうしばらくまて」というお話であった。
ところで
FTF Japan 2012が終了した3日後である10月25日、Freescaleは第3四半期の決算発表をすると共に、大規模な組織変更をアナウンスした。先程までFreescaleはNMSGとAISGという2つの製品グループがあるという話を紹介したが、この組織構成になったのは2011年末の事。現在はAMDのSVP/GM, Global Business UnitsのポジションにあるLisa SuがFreescaleを退職したため、彼女の率いていたNetworking and Multimedia GroupをKazerounian博士とDeitrich氏、2人のSVPに割り振ったという、何というか当座のグループ分けといった趣のあるものであった。このあたりをもう一度きちんと整理しなおしたという感じで、部門が随分分割されることになった。具体的には
- Microcontrollers:ここにはIMM(Industrial and Multi-Market)、Metering、MMC(Medical and Connectivity)とMAD(Multimedia Applications)向けのプロセッサ製品が含まれる。これまでAISGに属していたGeoff Lees氏が統括。
- Digital Networking:ここにはNISGのNetwork Processor関連製品が含まれる。Tom Deitrich氏が引き続き統括。
- Automotive MCU:AISGの製品群のうち自動車向けMCUがここに含まれる。統括するのは、先日Fairchild Semiconductorから移籍してきたBob Conrad氏。
- Analog & Sensors:ここには自動車用アナログとMixed-Signal、それとセンサということで、AISGの抱えていた自動車向けアナログ製品+DSC、NMSGの抱えていたXtrinsicを受け継ぐ形となる。統括するのはMaxim Integrated Productsから先日入社したJames Bates氏。
- RF:これはNMSGの持っていた基地局向けRF製品を分離した形になる。こちらはNMSGに属していたRitu Favre氏が統括する。
といった具合になる。他に、製造部門に関して新しくリーダーをGlobalFoundriesから招き入れて独立部門にするなどの動きもある。
米国企業では、新しいリーダーが来ると部門トップがガラッと入れ替わるのはそう珍しいことではなく、今回もそうした動きの1つと言えるだろう。結果としてAISGがほぼ解体されたほか、AISGのKazerounian博士がSVPのポジションを失った(この原稿を書いている(2012年10月末)時点では、SECへのFillingを見る限りまだFreescale内に居られる様ではあるが)様で、こうした大々的な組織変更が今後どう出てくるのか、ちょっと興味深くはある。
なお、これに関連して2012年10月26日付けのEETimesは、同社がDiscrete DSPのマーケットから撤退すると報じており、この結果としてごく僅かながらリストラを行うとしている。恐らくここで言うDiscrete DSPとはSTARCoreベースのMSC7xxx/8xxxシリーズ製品のことで、MC56F8xxあるいはDSP56xxxシリーズのDSCや、QorIQ Qonvergeに搭載されるDSP製品は引き続き開発や販売を継続してゆくと思われるが、これに続くLowe氏の示す今後の方向性が気になるところである。
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