世界最大級のデジタルマーケティングイベント「ad:tech tokyo 2012」2日目からSMMLabが参加したセッションの内容をレポートします!
こんにちは、SMM Labの小川です。
10月30~31日に東京国際フォーラムで開催された日本最大級の国際的デジタルマーケティングカンファレンス、第4回「ad:tech Tokyo(アドテック東京)」。
2日目のセッション、Dトラック及びBトラックから、「サーチマーケティング」、「ROI」、「コンシューマーインサイト」というキーワードで「マーケティングの本質」について語られた3セッションをご紹介します。
[D-7]変化するサーチマーケティング:
サーチのノウハウと知見がマーケティングの基本を作る
D-7セッションでは、スマートフォン、タブレット、PCとデバイスが多様化する中で検索トレンドがどのように変化しているのか、またそれに応じてマーケティングはどう変わっていかなければならないかというテーマでディスカッションが行われました。
パネリスト(写真右から)
小野 雄高氏
グーグル株式会社
アカウントストラテジー&プランニング 統括部長
Kevin Ryan氏
Motivity Marketing
CEO
渡辺 隆広氏
株式会社アイレップ
取締役CSO SEM総合研究所 所長
Rhonda Hanson氏
Concur
Sr. Director, Global Search Marketing
モデレーター(写真左)
絹田 義也氏
ヤフー株式会社
マーケティングソリューションカンパニー プロモーション広告本部 スポンサードサーチ シニアディレクター
世界的にスマートフォン・タブレットの普及が進む
この1年でスマートフォンがパソコンの売り上げを世界的に上回りました。タブレットも伸びてきており、これからはスマートフォン・タブレットが確実に大きな存在になります。特に日本は、一般的に通勤に時間がかかることがあり、モバイルが向いていると言えます。
・スマートフォン:
世界的に見て、日本はスマートフォンの利用度が高い状況にある。特に女性と相性が良い傾向にある。既に総トラフィックの3~4割を占めている。
・タブレット:
日本では総トラフィックの5%にも満たないまだまだこれからの状況にあるが、例えば「不動産」や「自動車」等、高額な商材においては比較的トラフィックにおけるタブレットからの流入割合が多い。タブレットは、今は「情報に敏感な人たち」が利用している状況にあると言える。
サーチマーケティングはスマートフォン・タブレットにどう対応していくべきか
これからは、サーチマーケティングにおいても、「スマートフォン」そして「タブレット」をより強く意識することが大切です。それにはまずPCでの検索と、スマートフォンやタブレット等モバイル端末での検索がどう違うのかを理解する必要があります。
・PC検索:
高関与型商材の購入検討。よく比較検討をしたいケースに使われることが多い。
・モバイル検索:
ローカル検索や、辞書的な使い方。「ちょっとした」ことを検索するために使われることが多い。
一般的には上記のような使われ方であると言えますが、何より大切なのは自社の顧客が日常どのようなシーンで何を検索するかをしっかりと想像し、それに対する適切なサイト設計やSEMを行うことです。
例えば、パソコンで以前に目にしたことのある商品を店頭で見つけ、その場でスマートフォンから以前と同じ情報にアクセスしようとしたものの、同じ情報が見つからないということもあるのではないでしょうか。
これからは「マルチデバイス」「クロスデバイス」を意識し、消費者が「いつどこで何を探しているか」をしっかりと考えること、そしてそれをデバイス別に整理し、適切なコンテンツを提供することが求められます。
同じ消費者がデバイスからデバイスへと切り替えてサイトを利用するときの内容を見ていくと、検索段階ではモバイルでも購入段階ではPCになるなどの違いがあるかもしれません。またそれぞれのデバイスに最適なSEMやサイト設計が行われていない場合、デバイス間を動く時に、離脱する可能性があります。
こういったユーザー全てを捉えられるよう、「消費者目線に立ったマルチデバイスマーケティング」を行うことが大切です。
(参考)Google Ipsos Sterling 2012(*クリックするとPDFファイルが開きます。)
Google社が2012年8月に発表した調査。ユーザーがマルチスクリーンをどのように使用しているのかについてまとめられており、デバイス別のマーケティングを考える上でとても参考になる。
サーチで消費者の「インサイト」を掴め
消費者は、商品を購入する前の情報収集に検索エンジンを利用しており、その内スマートフォンで検索する人が6割、さらにその後、再度PCで検索する人が6割を占めています。
多くの消費者が購入前に商品を「検索」していることを考えると、検索は「購買に結びつけること」だけではなく、「潜在顧客のナーチャリング」にも活用できると言えるのではないでしょうか。つまり、今の消費者の検索トレンドを把握することで、コンシューマーが今何を求めているのか、そのインサイトを把握することもできるのです。
数年前は、購買に至る前の消費者インサイトついて「データがない」ことが問題でした。しかし、今は逆に「データがありすぎる」のが悩みの種になっている節があります。
多種多様なデバイスの登場も含め、これからはいかに多くの情報の中から適切な情報を読み取り、ユーザー視点でコンテンツを提供していくかが重要です。「ユーザーエクスペリエンス」の最適化を改めて考え直す時期にきているのではないでしょうか。
[D-8]ROI/経営強度を高めるためのマーケティング
D-8セッションでは、デジタル化の進展、スマートデバイスの普及、ソーシャルボイスの氾濫など、急速に変化しつつある時代の中、中長期的にビジネスの成長可能性と安定性を高めていくためには、マーケティングにおいて何が大切になるのかというテーマでディスカッションが行われました。
パネリスト(写真右から)
中村 晃氏
アドビ システムズ株式会社
マーケティングインテリジェンス部 部長
西井 敏恭氏
株式会社ドクターシーラボ
マーケティング部eコマースグループ グループ長
佐藤 夏生氏
博報堂ビジネスアーツ
クリエイティブディレクター
田中 正道氏
BULB 株式会社
代表取締役社長
モデレーター(写真中央)
北爪 宏彰氏
株式会社博報堂
エンゲージメントビジネスユニット
「数値」によるマーケティングのオートメーション化は正しいのか?
デジタル時代においてマーケティングを最適化するにあたり、(クリック率やコンバージョン率などの)数値を用いて機械的にマーケティングを改善すること=つまりマーケティングをオートメーション化するということがあります。
これにはもちろん、人手を用いず簡単に「データの抽出」ができたり、また数値という絶対的な事実があることにより「ブレ」がなくなる等の利点はありますが、本当はもっともっと「人」がやれることがあるのではないでしょうか。
数値によるマーケティングの最適化はとても重要なことであり、「悪」ではありませんが、最適化するだけだと売り上げを「105%」にすることはできても、「150%」にすることはできません。
例えば、ドクターシーラボは、年間20億円だった売上(西井氏が入社した当時)が、たった5年で年間100億円まで成長しました。数値を用いたマーケティングの「改善」と「最適化」だけでは、ここまでの成長は見込めなかったはずなのです。
「新しいお客様」を創りださなければ大きな成長は見込めない
ECを最適化することは、すなわち「売れ筋商品を売る」ことに集約されていきます。つまり、ECサイト上で売れ筋の商品をたくさん仕入れ、SEOでキーワード検索の上位に表示させることで売り上げはそれなりに上げることができます。しかしながら、それは本質的な事業の成長になっているのでしょうか?本来、事業の成長にとって大切なことは、「売れ筋を売る」だけでなく、「売れ筋を創る」ことになるのではないでしょうか。
マーケティングは、どうしても短期的なKPIに踊らされがちです。
例えば、メールマガジンで「テキストメール」と「HTMLメール」で開封率が変わらなかったとします。その場合、数値的な効率の良さ、短気的なKPIから考えると、人的コストが少なくROIの良い「テキストメール」の方が事業にとって好ましい、という判断になります。一方で、表現力は「HTMLメール」の方が圧倒的に上であり、顧客の満足度から考えれば「HTMLメール」が選択されるべきなのではないでしょうか。
また、コールセンター業務も同様です。ROIの観点から考えれば、顧客一人あたりの通話時間を短くする方が効率的ですが、顧客一人一人に丁寧に接し、満足度を上げ、結果としてリピーター率を増やし、一人あたりの年間購入金額を上げることが大切なはずです。
マーケティング=全ての顧客接点でお客様と向き合っていくということ
マーケティングというと、どうしても「アド」だけの話になってしまいがちですが、本当はすべての顧客接点でお客さんと向き合っていくことなのです。
売上を120%上げるためには、「120%多くの人を幸せにする」か「既存のお客様の一人一人の幸せ度を120%上げる」ことが必要となります。
つまり、「多くの人に好きになってもらう」か「今までの人にもっと満足してもらう」ことが大切なのです。KPIも、本来それを実現するための指標として設定されるべきであり、ROIもそのような観点から測られるべきです。
KPIの数値の置き方を「サイエンス」にしてしまうのはつまらないし、危険でもあります。都合のよい数値だけを引っ張ってきて、「自分はちゃんとやっている」ということを言うために数値を並べることにもなりかねないためです。
一方で、もちろん数値はとても大切なものです。数値で実際の効果が証明できれば、経営陣の説得にもなりますし、人を動かすことができるのも事実です。ただ、「組織としてレポートがしやすい」という理由だけで数値を取ることは避けなければなりません。大切なことは、あくまでのその裏にある顧客のインサイトを見ることです。
「KPI」の設定にクリエイティビティを
本来の目的に沿ったマーケティングを行うために、KPIも企業ごとに違ったものであるべきです。
例えばマクドナルドとスターバックスを比較した際、同じ「店内の回転率」を取ってもそれぞれによって置くKPIの数字は全く違うものになるでしょう。「スポーツ」一つを取ってみても、どんな「筋肉」が必要とされているかは、それぞれで全く異なるはずです。
このように、それぞれの企業の目的に応じてKPIは異なるべきであり、KPIの設定そのものに「クリエイティビティ」が入っているべきではないでしょうか。
また、あるリハビリ施設の病院に訪れたとき、病院内が全く「バリアフリー化」されていないという状況にありました。その理由を尋ねてみたところ、「病院にいる間に、世間と同じ状態=バリアフリーでない状態を経験しておいてほしいから」とのことでした。
普通に考えれば病院はバリアフリー化されていて当たり前、とも思えますが、この病院では全く異なった考え方で、入所される方の希望を満たしていました。これこそが「売れるもの」を創る考え方ではないでしょうか。
直接的な売り上げは生み出さなくても、想い、ビジョン、ミッションをきちんと伝えること。そして、「どういう人たちがいま生きていて、どういう風に考えているか」を一生懸命考えること。それこそが、根本からファンを引き寄せることになるはずです。
[B-9]コンシューマーインサイトから見い出すイノベーションとは?
B-9セッションでは、これまでにないユニークなアイデアを生み出し、イノベーションを起こすために、「生活者の心理」にどのようにアプローチするべきかというテーマでディスカッションが行われました。
パネリスト(写真右から)
橋本 英知氏
株式会社ベネッセコーポレーション
教育事業本部 幼・小事業ドメイン経営企画室 室長 兼 グローバル教育事業部 部長
柴田 啓氏
株式会社ベンチャーリパブリック
代表取締役社長
モデレーター(写真左)
大松 孝弘氏
株式会社デコム
代表取締役
考えさせるな、無意識にアクセスせよ
ユーザーのインサイトを発見し、開発のヒントにすることで、ユニークなアイデアを生み出し、サービスにイノベーションを起こすことが期待できますが、この「ユーザーインサイト」は従来型のアンケート調査ではなかなか知ることができません。
本来、ユーザーが何かを選ぶときのほとんどは「無意識」下で行われていると言えます。つまり、何か理由があってある商品を選んでいるのではなく、ほとんどが「何となく」行われているのです。私たちがターゲットにアプローチしたい時は、この「何となく」を追求することが大切です。
考えさせるな。無意識にアクセスせよ。:http://www.youtube.com/watch?v=2hTX-iLENeM&feature=player_embedded
コンシューマーインサイトから見出すイノベーションとは?
「ベネッセ」では、「こどもちゃれんじ」を「子供の成長に出会え、家庭での一緒の時間が楽しく過ごせる」ものとして提供しています。この裏には、実は「閉ざされた部屋で子供と2人きり、煮詰まった関係に悩んでいる」というコンシューマーインサイトがあります。「こどもちゃれんじ」では、この点に着目し、ダイレクトメールの封筒デザインを「アウトドア」「自然」等、開放感のあるクリエイティブに変えたところ、好感度を上げることができました。
また、進研ゼミでは「赤ペン先生がどんな人か知りたい」というコンシューマーインサイトに基づき、赤ペン先生を「担任制」にしたところ、赤ペン先生に親しみを持ち、結果的に進研ゼミを継続してくださる方を増やすことができました。普通は「赤ペン先生がどれだけよい指導をするか」を目指すところ、「赤ペン先生とどう仲良くなってもらうか」を目指す変革を実行したわけです。
このように、イノベーションを起こすためには普段とは異なる着眼点を持つこと、そして競争のルールそのものを変革することが大切なのではないでしょうか?例えば「飲料」でいえば、パッケージや味については考えるだけでなく、「その量は適切?」という点も考えることが大切なのです。
また、機能を追加するだけなく、機能をそぎ落としてとがらせ、光らせていくことも付加価値になるのではないでしょうか。
イノベーションを生み出すために「組織」があるべき姿
コンシューマーインサイトを発見しイノベーションを生み出すためには、サービスを提供する企業側が徹底的に「ユーザー視点」になることが大切です。
まずは社長こそが一番の「コンシューマー」となり、生活者のインサイトにアプローチしていくこと、そしてそれを仕組み化し、一人ひとりのアイデアの質を高め、新商品を生み出していけるための組織力の強化が求められます。
そのためには、まずは「情報を社内にあふれさせる」ことが重要です。情報の収集を組織としてしっかりと実行し、自分自信も「コンシューマー」として「インサイト」を考え続ける努力をすることがイノベーションにつながっていくはずです。
3つのセッションのテーマはそれぞれ異なっていたものの、全てのセッションにおいて「顧客の視点に立って物事を考えること」「あらゆる接点において顧客の満足度を高めること」というマーケティングの「本質」に迫るディスカッションが行われたことが印象的でした。
「ソーシャルメディア」の隆盛による消費者の声の氾濫、購買情報にとどまらない「データ」の爆発、スマートフォンやタブレットによる「デバイスの多様化」とそれに伴う消費者行動の変化等の大きな変革が起こる中でも、マーケティングにおいて、そしてビジネスそのものの本質において大切なことは変わらないことを改めて考えさせられました。
SMM Labによるad:tech東京2012レポートは、今回で最終回となります。「ソーシャルメディア」や「ビッグデータ」など様々なマーケティング背景の変化やアドテクノロジーの進化がありながらも、カンファレンス全体を通じてFacebookのMark D’Arcy氏が用いた「Authentic」という言葉に象徴される「本質論」に立ちかえった議論がなされていたことが印象的でした。また、消費者の生活に密着した「スマートフォン」「モバイル」の持つ可能性や、企業がそれにどう対応していくべきかについてもほぼすべての登壇者から言及があり、これからのマーケティングにおいて間違いなくNo.1のキーワードであることを実感させられました。
今回のad:tech東京2012に参加された方、またSMM Labの記事をお読みいただいた皆様は、今回のカンファレンスを通してどのような感想をお持ちになりましたか?宜しければコメント欄でお聞かせください!
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