日本原子力研究開発機構(JAEA)とクラボウグループの倉敷繊維加工は11月7日、電子線グラフト重合技術により、水に溶けている放射性セシウムだけを選択的に吸着できる捕集材の開発に成功し、倉敷繊維加工が、同捕集材を充填したカートリッジを製品化したことを発表した。この捕集材を充填したカートリッジは、市販のろ過器の容器への取り付けが容易であるため、生活の場ですぐに利用することができるという。

同成果はJAEA環境機能高分子材料研究グループの瀬古典明グループリーダー、柴田卓弥任期付研究員、倉敷繊維加工の中野正憲主任部員、見上隆志常務取締役らの研究グループによるもの。

東日本大震災に端を発する東京電力福島第一原子力発電所の事故により、環境中にセシウムが広範に飛散。事故直後から土壌の剥離や凝集剤を用いた手法により多くの放射性物質が除去され、生活環境においては、空間線量を下げることができるようになってきた。しかしながら、被災地の大半が森林部であり、そうした部分では十分な除染が行われていない場所も多く残されており、その結果、こうした森林や草木に付着したセシウムが、時間の経過とともに生活用水などに利用されている井戸水や沢水などの水路に混入することが懸念されている。

セシウムが水路へ混入する際の形態としては、水に溶けているものと溶けていないものに大別されるが、物理的なろ過で採りきれない極微量で溶存する可溶性のセシウムについては、化学的かつ高効率に捕集する安心な捕集材が求められている。

JAEAと倉敷繊維加工は、これまで捕集材からの溶出成分が少ない金属除去捕集材の開発に関して共同研究を進め、超純水用フィルターなどの商品化を行ってきたが、今回の研究は、こうしたこれまでの実績をセシウムに対して吸着性能が良好な捕集材の開発に展開したものとなっている。

今回開発されたセシウムを除去可能な捕集材は、酸やアルカリに強く、軽量で加工性の良いポリエチレン製の不織布素材に、JAEAが開発した電子線グラフト重合技術でセシウムと親和性の高いりんモリブデン酸基を導入したもので、同捕集材を用いて環境中に飛散して、湖沼や井戸水中に溶け込んだセシウムの吸着除去性能評価が行われた。

各処理時のセシウム含有量

評価に使用された試料水は、2012年6月から7月のモニタリングにおいて福島県南相馬市内で採水し、80Bq/kgのセシウムが検出された井戸水で、これを0.45μm径および0.1μm径の市販濾過膜(物理濾過)と市販のアニオンおよびカチオンタイプのイオン交換ろ紙で処理を行ったところ、一部のセシウムを除去することはできたが、56Bq/kgの可溶性のセシウムが残存することが確認された。

そこで研究チームは、この56Bq/kgのセシウムが残存した井戸水(試験水)に対して開発した捕集材を用いて評価を進め、セシウムとの接触状況が異なるバッチ吸着試験とカラム吸着試験を行い、処理前後のセシウム濃度を測定して吸着・除去性能を行った。

吸着実験の様子(左がバッチ試験、右がカラム試験)

バッチ吸着試験では、円形(約φ35mm、0.18g)に切り出した吸着材を試験水が入ったポリ瓶に投入し、17時間浸漬撹拌を行った。また、カラムを用いた試験では、φ9mmのカラム(注射筒)に吸着材1.3mlを充填し、注射器を用いて試験水を吸引して吸着材に接触させた。その結果、バッチ吸着試験では、17時間後の試験水中にはセシウムが検出されなかったほか、カラム吸着試験では、バッチ吸着試験の約4倍量の試験水を通液し、使用した吸着材量はおよそ1/2、接触時間はおよそ1/100であったにもかかわらず、バッチ吸着試験と同等、検出限界値以下まで除去することができたことが確認され、これにより開発したグラフト捕集材は、高効率(短時間)でのセシウムの吸着除去が可能であることを示すことが判明した。

なお、2者は今後、学校のプール水の保守などへの適応性評価を進めていく予定とするほか、開発された捕集材を充填したカートリッジは、11月10日に福島県川内村で開催される第3回地下水サミットの会場において、実物を展示して紹介する予定としている。

電子線グラフト重合技術の概要と、開発されたグラフト捕集材の概要