沖縄科学技術大学院大学(OIST)が11月8日、神経活動によって使われた伝達物質グルタミン酸が補充される速度を実測することに成功したと発表した。
同成果は、OIST細胞分子シナプス機能ユニットの高橋智幸教授と堀哲也研究員らによるもので、米国科学誌「Neuron」電子版に掲載された。
神経細胞は様々な刺激に反応して電気インパルスを発生させる。インパルスが「シナプス」と呼ばれる神経細胞間の繋ぎ目に達すると、シナプス前細胞の末端から化学伝達物質が放出され、後シナプス細胞にインパルスを発生させるが、こうした化学シナプスの伝達が脳の働きを支えている。
こうした化学シナプス伝達を維持するためには、伝達物質が絶え間なくシナプス前末端に補充されている必要がある。このような化学伝達物質は「シナプス小胞」と呼ばれており、小さな膜コンパートメントの中に貯えられている。インパルスがシナプス前末端に到達すると、小胞の膜が前末端の膜に融合して、小胞が細胞外に開口し、伝達物質が放出され、その後、前末端膜は細胞内に陥入し、切り離されて小胞が再生されるが、この空の小胞に伝達物質が再充填され、シナプス伝達に再利用されるという「小胞リサイクリング」によって、神経回路は信号のやりとりを続けることができる。この伝達物質の小胞への充填速度は神経伝達の頻度を制約する重要な要素となるが、これまで充填速度を正確に測る方法はなかった。
今回、研究チームはマウスの脳切片の神経終末端内で小胞に興奮性伝達物質グルタミン酸が充填される時間を測る方法を考案、充填時定数が15秒であることを突き止めた。また併せて、充填速度が、シナプス前末端内のCl濃度が正常値より高すぎても低すぎても遅くなることも見出した。
この結果、神経情報伝達の持続を支える小胞充填速度が解明されたほか、神経情報伝達の速度を低下させる要因の1つが明らかとなったことから、研究チームでは今回の成果について、神経情報伝達の基礎知見に貢献すると共に、脳神経機能障害の解明と治療に手がかりを与えるものと言えるとコメントしている。