大阪大学(阪大)は、神経系を構成する神経細胞(ニューロン)ではない細胞(グリア細胞)の1つであるミクログリア(グリア細胞は一般に神経細胞の支持、栄養補給、伝達物質やイオンの取り込みなどの役割を果たしているが、ミクログリアだけは白血球の仲間として、侵入した菌や死細胞を捕食することを主たる役割としている)が、本来の役割である脳内環境の維持だけでなく、神経の配線が作られるときにも一役買っていることを見出したと発表した。
同成果は同大大学院生命機能研究科の星子麻記氏(現 慶應義塾大学医学部 柚崎研究室 特任助教)と山本亘彦 教授およびフランスパリ大学Etienne Audinat教授らの研究グループによるもので、詳細は米国神経科学会誌「the Journal of Neuroscience」に掲載された。
脳は神経細胞とグリア細胞から構成されており、グリア細胞の1つであるミクログリアは、死細胞や異物を貪食する掃除屋として知られている。そのミクログリアが近年、脳の機能発現にも深く関わっていることが示唆されるようになってきていた。しかし、その役割については不明な点が多く残されており、研究グループでは今回、発達期のマウス大脳皮質を用いた研究を行った。
マウスなどのげっ歯類の大脳は、口髭の1本1本に対応して神経細胞が塊を成して分布し(バレル構造)、生後間もない時期に髭からの入力線維がその細胞塊に侵入する。その後、入力線維は塊内の細胞と結合し、髭の感覚情報が正確に伝播されるようになるという形成過程を経るが、研究ではミクログリアが蛍光を発するように仕組んだ遺伝子改変マウスを用いて、その挙動と神経伝達に対する働きを追跡した。
結果、脳の発達初期にはミクログリアは細胞塊の外側で待機しているが、その後、神経細胞からケモカインが分泌されると、ミクログリアはその細胞塊のシナプス形成部に侵入し、入力線維から大脳神経細胞へのシナプス伝達(グルタミン酸受容体を介する伝達)の成熟を促すことが明らかとなり、ミクログリアが脳内の環境を整えるだけでなく、生後の健全な脳発達に必要な存在であることが判明した次第だ。
なお研究グループでは、大脳の機能発達には、神経細胞同士の結びつきだけでなく、食細胞として知られていたミクログリアが脇役として重要な役割を果すことが明らかになった今回の成果について、子供の脳発達のメカニズムや環境要因の役割の解明に一石を投ずるものになると説明している。