東京大学は11月2日、「マイクロRNA(miRNA)」が機能を発揮する上で必須の因子であると考えられてきたタンパク質「GW182」に依存しない新たな作用機構の存在を明らかにし、そのGW182非依存的な抑制機構が、これまで知られてきたGW182依存的な抑制機構と共に標的遺伝子の発現抑制に働いていることを解明したと発表した。
成果は、東大 分子細胞生物学研究所の泊幸秀准教授、東大大学院 新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻博士課程の深谷雄志氏らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間11月1日付けで学術誌「Molecular Cell」に掲載された。
小さなRNAの1つであるmiRNAは、標的とするメッセンジャーRNA(mRNA)からのタンパク質合成(翻訳)を適切に抑制することで、発生や細胞増殖といった重要な生命現象を緻密に制御している。また、がんなどをはじめとする重篤な疾患への関与も知られており、それらを標的した治療法なども精力的に研究されているところだ。
しかし、miRNAがどのようにして標的遺伝子を抑制するのかという根本的な謎については、これまで相反するさまざまな報告がなされており、正確な理解が遅れていた。
miRNAは単独で働くわけではなく、機能を発揮するためには、いくつかのタンパク質と複合体を形成することが必要だ。この複合体で中心的な役割を担うのが「Argonaute」と呼ばれるmiRNA結合タンパク質と、Argonaute結合タンパク質であるGW182だ。
タンパク質の設計図として働くmRNAは通常、末端に「Poly(A)鎖」と呼ばれる、塩基の「アデニン」のみが連続する特徴的な配列を持っており、翻訳の促進やmRNA自身の安定化に寄与している。miRNAは、標的mRNAの「Poly(A)鎖の分解」と「翻訳抑制」を介して遺伝子発現を抑制することが知られているが、GW182は、miRNAがこれらの機能を発揮するために必須の役割を担っていると考えられてきた。
研究グループは今回、GW182が存在しない状況を作り出し、その際のmiRNAの振る舞いについて詳細な解析を実施。その結果、従来考えられてきたように、GW182はmiRNAによるPoly(A)鎖の分解には必須だったが、一方で翻訳抑制はGW182非存在下においてもきちんと進行することが明らかとなったのである。
さらにGW182自身も翻訳抑制を誘導する活性を持つことから、miRNAによる標的遺伝子の発現抑制には、(1)GW182依存的なPoly(A)鎖の分解、(2)GW182依存的な翻訳抑制、(3)GW182非依存的な翻訳抑制、の少なくとも3つの経路が寄与することが判明したというわけだ。
過去の報告では、これら複数の異なる現象をひとまとめにして観察してしまっていたために、一見矛盾する結果が生じていたと推測されるという。今回の発見は、miRNAが遺伝子発現を正しく制御する仕組みの解明につながる成果であり、その正確な理解に基づく医薬などへの応用が期待されると、研究グループはコメントしている。