東京大学は11月2日、順天堂大学や理化学研究所(理研)の協力を得て、アレルギー反応を抑える生体内の仕組みとして、レセプター(受容体)の「LMIR3/CD300f」が「肥満細胞」(同細胞は肥満とは関係ない)の活性化によるアレルギー反応を抑えることを明らかにしたと発表した。
また、肥満細胞のLMIR3の「リガンド」(特定のレセプターに結合する物質)として細胞外脂質の「セラミド」(皮膚に存在するスフィンゴ脂質の1種で、細胞内のシグナル伝達物質として作用し、バリア機能も持つ)を同定し、LMIR3とセラミドの結合が肥満細胞の過剰な活性化を抑えることを証明した。
成果は、東大医科学研究所 先端医療研究センター 細胞療法分野の北浦次郎助教、同・北村俊雄教授、順天堂大医学部の奥村康教授、理研 発生再生科学総合研究センターの清成寛研究員らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、11月1日付けで米国科学雑誌「Immunity」オンライン版に掲載され、また印刷版の11月16日号に掲載される予定だ。
近年、アトピー性皮膚炎、ぜん息、花粉症などのアレルギー疾患は増加傾向を示しているが、そうしたアレルギー疾患を解明するためには、アレルギーの発症と抑制の仕組みを理解する必要がある。
生体は、ダニや花粉などの抗原に暴露されると、抗原を認識する「IgE」を産生。そのIgEと抗原が免疫細胞の1つである肥満細胞の「高親和性IgEレセプター」を刺激すると、肥満細胞が活性化され、「ヒスタミン」などの化学伝達物質を放出して、アレルギー反応を引き起こすというものだ。
つまるところ、アレルギー反応を抑制する方法の1つとして考えられるのは、アレルギーを発症させる原因の1つである肥満細胞の活性化を抑えることができればいいということになる。しかし、その抑制させる仕組みについては謎のままだった。
免疫レセプターとは、細胞外のリガンドを認識して、免疫細胞にシグナルを伝達する受容体のことだ。その中には、細胞外領域の構造が似ている一方、細胞内領域の構造が異なるために、互いに正反対の機能を持つ免疫レセプター群も存在する。
このようなレセプター群は、「ペア型免疫レセプター」という。一方は免疫細胞を活性化するレセプターであり、他方はその活性化を抑えるレセプター(抑制型レセプター)となるのである。
「白血球単一免疫グロブリン様レセプター(LMIR、別名CD300)」ファミリー分子は、ペア型免疫レセプターであり、マウスでは少なくとも8種類のLMIRが存在することが確認済みだ。
LMIR3/CD300fの細胞内領域には、免疫受容体抑制性あるいは「互換性チロシンモチーフ(ITIMもしくはITSM)」と呼ばれるアミノ酸配列が存在する。この配列内に存在するチロシン残基がリン酸化されると、「チロシンフォスファターゼ」と呼ばれる分子が結合して、細胞内の活性化シグナルを抑制する仕組みだ。
このように、LMIR3は抑制型レセプターであると考えられるが、LMIR3の生理的なリガンドがわからないために、LMIR3の生体内における役割は不明のままだったのである。
研究グループは今回、ペア型免疫レセプターLMIR/CD300ファミリの1つであるLMIR3/CD300fが肥満細胞の過剰な活性化を抑える重要なレセプターであることを解明。実際、LMIR3を欠損させたマウスでは、IgEと肥満細胞の関与するアレルギー疾患(アナフィラキシー・ぜん息・皮膚炎)の症状が悪化することを示したのである。
次に研究グループは、LMIR3のリガンドを同定するために、LMIR3の細胞外領域を利用して、物理的な「結合アッセイ」と機能的な「レポーターアッセイ」を行った。さまざまなタンパクや脂質をスクリーニングした結果、LMIR3のリガンドとして細胞外脂質のセラミドを同定したのである。
セラミドはマウスの皮膚上皮に豊富なことが知られているが、肥満細胞が局在する皮膚真皮にも存在することが明らかとなり、さらに肥満細胞に発現するLMIR3とセラミドの結合が肥満細胞の活性化を抑え、アレルギー反応を減弱させることを証明したというわけだ。
また、肥満細胞のLMIR3とセラミドが結合するだけではLMIR3のチロシンリン酸化は生じないが、同時に高親和性IgEレセプターが刺激されると、LMIR3のITIMとITSMが強くリン酸化されて、肥満細胞の過剰な活性化が抑えられることが判明したのである。
今回の研究により、生体が備える抗アレルギーの仕組みが明らかになった。研究グループによれば、脂質のセラミドやその類似体の投与により肥満細胞におけるLMIR3の機能が強化されれば、アレルギー症状が軽減する可能性があるという。また、今回の研究結果を利用することにより、社会的関心の高いアレルギー疾患に対する新しい予防法や治療法の開発が期待されるとしている。