東京スカイツリーのふもとにある「すみだ水族館」は、都心にありながらさまざまな水生生物と親しむことのできる場所として、開業以来多くの人でにぎわっている。そんな同施設のシンボルとなっているロゴマークは非常に印象的で、親しみやすく、かつシンプルな魚のマークが採用されている。今回は、同施設のロゴを手がけたデザイナーの廣村正彰氏に話を聞き、ロゴマークに込められた"想い"に迫った。
――「すみだ水族館」のロゴマークは、かわいらしい魚のモチーフが使われているのがとても印象的です。国内の他の水族館のように抽象的なマークではなく、明確な生き物のモチーフを用いた理由をお教えください。
廣村正彰 |
ご質問の通り、水族館のロゴは年々抽象化していく傾向にあります。その理由は、水族館という施設の領域が広がってきていて、水生生物の生態展示にプラスして、地球や環境問題、人間がどこから来たのかというところまで考える場所としての役割も担うようになってきたからだと考えています。
しかし、私としては、ビジュアルとしては分かりやすい方向に行った方がよいのではないのか、と考えたんです。これが、今回のマークを具体的にしたひとつの理由です。
もうひとつの理由は、このマークが"可変的である"ということ。このマークはブロックのようなイメージで作ってあって、メインロゴの魚だけでなく、ペンギンやカメなど、展開しているすべてのマークが三角形の組み合わせでできています(※1)。"可変"というところが、最終的に案を採択する方々にも受けた点ではないかと思っています。水族館を作るということは、生き物を扱い、その責任を持ち続けることも意味します。そういった意味でも、"継続性"や"永続性"をビジュアル化したものでもあるんです。
実は、魚の案はあくまで案の中のひとつで、抽象的なデザインにしたほうがさまざまな意味をこめられるので、そういった方向の案を多く作成していました。ですが、この三角形で出来た魚が生まれたときに「これはいける」と思えたんです。私はあくまでデザインを提案する側なので、最終的な採択はすみだ水族館を運営するオリックスさんが行うのですが、すばらしい選択をしていただけて本当によかったと思っています。
※1
すみだ水族館では、メインの魚のモチーフと同じ法則性にのっとって、ペンギンやカメなど、さまざまな動物のモチーフが制作されている。
――すみだ水族館が展開するハロウィーンのイベントに合わせて、廣村さんが特別なロゴをデザインされたとのことですが、ハロウィーンを象徴するモチーフはさまざまにある中でかぼちゃとコウモリを選んだ決め手は何ですか?
特にカボチャのモチーフについては、「日本人の考えるハロウィーンといえば何だろう?」と考えた上で選びました。また、メインのマークがわかりやすい可変性を持つものだったので、シンボル化できるものを使っていきたいなと思って選択しました。
今回このロゴが生まれたのは、ハロウィーンのイベントを展開するにあたって、その象徴となるマークをオリックスさんから依頼されたからなんです。こういった形で、一年にわたって、四季折々でこういった形でロゴが増やしていけたらと思います。
――既存の案を拝見して、魚のロゴに最初は目があったというところが非常に驚きました。
そうなんです、最初はあったんですよ。でも、我々が自主的に取ったんです。目というものはかなり強いんですよ。
海外でも日本のアニメーションなど独自の文化がとても評価されていて、実際とても面白いものだと思います。ただ、"面白い"ということと、"長期間の使用に耐えうるデザイン"というのは、相反するとまではいかないまでも、(共存させるのは)なかなか難しい作業になります。
なので、強いキャラクターを感じないが、愛着は湧く、というようなバランスを取りたいと考えました。それには、目を取ったほうがいい。"可変性"というキーポイントに対しても有効に働くのではないかと考えました。当然ながら、目がついたほうがかわいいんですよ。でも、そうするとロゴマークではなくキャラクターになってしまう。キャラクターの一歩手前で止めておくのがいいだろうという判断で取ったのですが、結果的に省略して正解だったと思います。
廣村氏は、ロゴマークだけでなく、同施設のサインデザインなども手がけている。次の記事では、日ごろ目にしているはずなのにあまり意識していない「サインデザイン」について、「すみだ水族館」の内容を例にし、語っていただいた。こうご期待。