東京大学は、酸化ストレスに応答して細胞死を誘導する細胞内シグナル伝達分子であるタンパク質「ASK1」に着目し、その活性を調節する新しいタンパク質「KLHDC10」を発見、ASK1の阻害因子のタンパク質「PP5」の機能を抑制することで、ASK1の持続的な活性化を可能にし、細胞死を誘導していることを明らかにしたと発表した。

成果は、東大大学院 薬学系研究科の一條秀憲教授、同・関根悠介助教、同・三浦正幸教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国時間10月25日付けで米国科学雑誌「Molecular Cell」オンライン版に掲載された。

生体内での「活性酸素種」の過剰な産生は、生体を構成するタンパク質や核酸、脂質などに傷害を与え、その機能不全を引き起こす危険性がある。生物は活性酸素種を適切に解毒するさまざまな防御機構を備えているが、それでも処理しきれない重篤な酸化ストレスが生じた場合、細胞死が誘導される仕組みだ。

このような細胞死は、神経変性疾患や代謝性疾患、がんなどヒトのさまざまな疾患の病態に関与することが知られている。しかしながら、どのような分子機構で酸化ストレスによって細胞死が誘導されているかについては、不明な点が残されていた。そこで研究グループは今回、酸化ストレスによって引き起こされる細胞死の分子機構の解明に取り組んだ。

これまでに研究グループは、ASK1が活性酸素種に応答して活性化し、細胞死を誘導することを明らかにしていた。しかし、酸化ストレス依存的なASK1の活性化がどのような分子機構で制御されているかについては不明な点が多く残されていた。

そこで、ASK1の活性を制御する新たなタンパク質の探索を、遺伝学的研究に広く用いられているショウジョウバエを用いて実施したのである。そしてその結果、KLHDC10がASK1を活性化することを明らかにしたという次第だ。

続いて、KLHDC10がどのようにASK1を活性化しているのかを明らかにするため、KLHDC10と結合する分子の探索を実施。その結果同定されたのが、PP5というわけである。

研究グループは以前の研究で、PP5は酸化ストレス依存的にASK1に結合し、ASK1の機能を抑制する分子であることを明らかにしていた。そこで、KLHDC10がASK1を活性化する分子機構として、KLHDC10がPP5のASK1抑制効果を阻害することで、ASK1を活性化しているのではないかと仮説を立て検証。

その結果、KLHDC10は酸化ストレス依存的にPP5に結合すること、KLHDC10はPP5の活性を抑制できること、KLHDC10の発現を抑制した細胞では、酸化ストレス依存的なASK1の持続的な活性化ならびに細胞死が抑制され、その効果はPP5の発現を同時に抑制することでキャンセルされることを明らかにした。

これらの結果は、KLHDC10がPP5の活性を阻害することで、酸化ストレス依存的なASK1の持続的な活性化を可能にし、細胞死を誘導していることを示唆している。

今回の研究成果の重要な点の1つは、酸化ストレス誘導性の細胞死に重要な新たなタンパク質が発見されたことだ。酸化ストレスによって引き起こされる細胞死は、パーキンソン病やアルツハイマー病といった神経変性疾患を初め、ヒトのさまざまな疾患の病態に関与することが知られている。

また、ASK1の遺伝子を欠損させたマウスの解析から、ASK1も酸化ストレスが関与するさまざまな疾患において、細胞死を誘導することでその病態に関与していることが示唆されていた。今後、さらに詳細な解析を行うことで、KLHDC10によるASK1活性制御をターゲットとした新たな治療薬開発につながることが期待されると、研究グループは述べている。

画像1。酸化ストレス依存的なASK1の活性化におけるKLHDC10の役割