新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は10月29日、NEDOの「高温超電導ケーブル実証プロジェクト」において、東京電力、住友電気工業(住友電工)、前川製作所の3者が「高温超電導ケーブル」を電力系統に連系する、国内で初めての超電導送電の実証試験を開始したと発表した。
なお高温超電導とは、液体窒素(-196℃)を使って冷却できる酸化物系超電導のことをいう。液体ヘリウム(-269℃)を使って冷却する低温超電導(金属系超電導)に対し、冷却設備が軽減できることからコンパクトな形状となり、コストも低減することが可能だ。
ケーブルもコンパクトになり、地中送電線の管路の小型化・少本数化につながり、実用化されれば送電効率の向上に加え、電力流通設備の建設においても大幅なコストダウンを実現するものとされている。
今回の事業を通じて開発された、超電導送電を可能とする世界最大容量(20万kVA級)の「三心一括型」(3本の高温超電導ケーブルコアを1つの断熱管の中におさめた構造)の超電導ケーブル(画像1)を、東京電力の旭変電所(神奈川県横浜市)内に全長約240mにわたり設置(画像2・3)、液体窒素を用いた冷却により超電導状態を維持し、電力系統に連系することでケーブルの実系統での運用性や信頼性、安定性を検証する。
なお、今回の実証試験で使用するケーブルの線材には、住友電工によって開発されたビスマス系高温超電導線「DI-BSCCO(Dynamically Innovative-BSCCO)」を改良して採用している。DI-BSCCOは住友電工がNEDOのプロジェクトの成果を基に2004年に開発したもので、今回のものは線材をスリム・コンパクト化することで、交流損失の低減化が図られた。なお、BSCCOは、化学式のBi2Sr2Ca2Cu3O10の頭文字を取っている。そして超電導ケーブルの冷却システムの製造・運転は、前川製作所が行う。
このプロジェクトでは、超電導ケーブルを社会の重要なインフラである電力供給システムに適用するために、これまでのNEDOの技術開発によって得られた超電導ケーブルの開発成果などを踏まえ、冷却技術などを統合する超電導ケーブルシステムを構築している。
また超電導ケーブル単体だけではなく、線路建設、運転、保守を含めたトータルシステムの信頼性を実証するために、実系統に連系した実証試験を実施することによって、超電導ケーブルのトータルシステムとしての総合的な信頼性を実証すると共に、革新的な高効率送電技術の開発・検証を行うことを目的とするものだ。
今回のプロジェクトの実施により、安定的かつ高効率な電力供給のための技術開発を行い、超電導ケーブルの初期市場形成と新規産業の創出に貢献することを目指しているという。
そして今回のプロジェクトでは、住友電工の開発による低交流損失型のビスマス線材を用いて、短尺ケーブルによる交流損失の検証および電力系統事故時における健全性の検証などと、これを基にした30m級の三心一括型超電導ケーブルの設計、製造と大電流接続部である終端接続部、中間接続部の技術開発を行い、これらの各性能評価が行われてきた。
また、実証場所における超電導ケーブルシステムおよび運転・監視システムの設計と構築、超電導ケーブルシステムと既存系統との接続・切り離しを行う保護・遮断システムの構築を東京電力と共に実施。
前川製作所が冷却システムの設計と構築、さらに送電を維持した状態でのメンテナンスの手法の検討を行い、実証試験のための超電導ケーブルシステムの設計に反映させた形だ。
これらを達成した後、66kV、200MVA級の三心一括型超電導ケーブルの製造および中間接続部、終端接続部の設計および製造、それらを冷却する液体窒素循環型の冷却システムを製造し、実証場所である東京電力の旭変電所に実証用ケーブルシステムを構築した。そして10月29日に、日本国内で初めて実際の電力系統と超電導ケーブルの接続を行い、実証試験を開始したというわけだ。
NEDOは本実証運転を通じて、地球環境問題への貢献が期待できる超電導ケーブルシステムの実用化に向け、引き続き積極的に取り組んでいくとしている。また東京電力、住友電工および前川製作所は、超電導ケーブルの実用化に向けた取り組みとして、通電容量の増大、建設コスト低減、高効率冷凍機開発等の技術開発に、さらに積極的に取り組んでいくとした。