Intelの日本法人であるインテルは10月18日、都内にて同社が2010年に提唱した「クラウド2015ビジョン」の現状についての説明と、次世代のクラウドコンピューティングに向けた新ビジョンの発表を行った。
クラウドコンピューティングの拡大により、2015年までに全世界で30億人、150億台の機器がネットワークに接続され、それに伴いデータ量は2年ごとに倍に増加することが見込まれている。そして中でも伸びが顕著なのがモバイル機器によるトラフィック量の増加であり、そうしたトラフィックの処理を行うデータセンターの電力消費量は60GWとなり、電力コストも270億ドルに上ると見られている。
トラフィック量が減ることは考えづらいため、IT側でそうした課題を解決する必要があり、同ビジョンはその解決に向けたものとなっている。
ビジョンとしては「連携」「自動化」「クライアント認識」の3つが重要とされている。例えば連携面では、企業内クラウドからパブリッククラウドへのシームレスな移行は進んでいるものの、そうしたパブリッククラウドが企業ないのセキュリティと同じレベルを確保するに至っていない。また自動化という面では、リソース・プロビジョニングの期間を月単位から分単位に短縮できるようにはなったものの、すべてが自動化できているわけではない。そして、クライアント認識の面では、パネルサイズやクライアントが置かれている場所や状況の判断などは進んだが、そうしたさまざまなクライアント機器で標準化されたサービスの提供実現はまだ途上段階にあるという。特に最後のクライアント認識についてインテルの取締役副社長の宗像義恵氏は「PCではクライアント認識用APIの搭載が始まり、徐々に成果を見せてきているが、それでもまだハードルが高い」とするが、同ビジョンの実現にはこれら3つの側面を同時に実現することが重要とする。
クラウド2015ビジョンの実現、そしてその先のクラウドコンピューティングの実現のためにはどういった行動が必要となるのかについて、同社では新たに「オープン・クラウド・ビジョン」を掲げ、混合型のクラウド環境(Hybrid Clod)に向け、セキュリティと資源配分の自動化、そしてユーザーの行動をリアルタイム予測し、状況に応じた高いユーザーエクスペリエンスの提供を実現することが重要だとの見方を示す。
オープン・クラウド・ビジョンの実現に向けて、同社では3つの戦略を進めていく。1つ目はITを使うユーザーニーズをきっちりと認識し、それぞれに優先度を付けてオープン化、標準化を推進していくこと。2つ目はそれぞれの用途における要求にあった新しいIT基盤を支援するためのプラットフォーム構築。そして3つ目が、新たなプラットフォーム、使い方などを満たすことに向けて使い方の提供としている。
「まだクラウドを使うためのリスクやセキュリティの担保が敷居を高くしている。技術の成熟度の問題もあるほか、企業文化の壁が立ちはだかっているのが現状。全体最適に向けて動こうと思っても、事業部ごとにITの管理などが縦割りになっており、技術的な問題以上の大きな壁として立ちはだかっている」(インテル クラウド・コンピューティング事業本部 データセンター事業開発部 シニア・スペシャリストの田口栄治氏)と、企業が真にクラウドを活用するためにはまだまだ課題が多いとし、その解決の1つの糸口をIntelが提供できればとした。
1つ目の戦略としては、同社はオープン・データーセンター・アライアンス(ODCA)などのアライアンスを構築しており(Intelはオブザーバとして参加)、そこにてユーザー企業たち自らが、何が必要かについての議論を進めているという。すでに300社を超す企業が参加しており、要求仕様のプライオリティを作成し、自分たちが欲しいデータセンターやクラウドに向けた提言を進めているほか、運用の透明性などのレポートなど、要求仕様集の提供なども進められているという。
また、ODCAのほか、さまざまな標準化団体などにIntelは参加しているが、それらの各団体同士が連携しようという動きもあり、Intelが橋渡し的な役割を担う側面もあるとする。
2つ目の戦略としては、クラウド化の進展により、ハードウェアのあり方、そしてソフトウェアの革新が起きている現状を鑑み、そうしたソフトウェアを柔軟に支援できる基盤を構築することが必要だとする。
特に2つの新しい波として、「クラウドストレージ」と「ネットワークの進化」を挙げる。ストレージは従来、1つのサイト内で用いるという設計思想であったため、クラウド環境のような、あちこち分散された状況で用いられる仕組みになっておらず、対応しようとすると拡張性や設定面で問題が多かった。そのため今後は安価な分散型ストレージという考えが浸透してくるとの見方を示す。「例えばEarsure Codingを活用すると、5000年経ってもデータが消えないストレージを実現可能。1台1台のRAIDに依存することなく、ストレージノードで使えるようになり、42Uラックで1PBの容量のストレージを従来に比べて安価に構築することが可能になる」(同)とする。
また一方のネットワークの進化としては、「従来のネットワークは色々設定をしたうえで機器がつながるが、仮想化環境でそれを行おうと思うと、色々と面倒が生じる。そうした意味ではソフトウェアによるネットワークのルーティングは必然的にクラウドの中では活用せざるを得ないことになっていく。重要なのは、標準型のシステムを自由に組み合わせて活用していくことであり、IntelではSoftware Defined NetworのリファレンスモデルとしてXeonに最適化されたさまざまなソフトウェアネットワークを評価できる環境を提供し、その流れを加速させたい」としており、年内中に、クラウド時代のソフトウェアの進化に対応可能なサーバアーキテクチャのリファレンスキットを提供していきたいとした。
また、そうした環境下におけるセキュリティやマネジメントの拡張も重要になってくるということで、クライアントからサーバまで、標準化されたセキュリティフレームワークを提供していくほか、そうした各機器のセキュリティ状況などを管理できるフレームワークも今後の5年間で整備していくとし、IT機器の環境情報やセキュリティの状況などをシングルコンソールで管理可能な仕組みを各種パートナーとのエコシステムによる広範なサポートを受けて構築していきたいとする。「データセンター・インフラストラクチャ・マネジメント(DCIM)という概念が最近出てきた。2013年以降はDCIMを使ったエコシステムの構築に向けた取り組みを進め、シリコンにも支援機能を搭載していく方針」(同)とする。
そして3つ目の戦略だが、「今までのIT基盤ではこうした新たな波に対応できないため、新たな波への対応を支援していく」(同)とのことで、インテル クラウド・ビルダーズのパートナーといかにクラウドを使いやすくするかといったソリューションをすでに100近く定義したという。「これらは単にこんな風に使えます、という概念的なものではなく、それを読んでもらえれば、実際にどういった手順を踏めばどういったことが実現できるか、といったドキュメントになっている。例えば、IT担当者がなりすまし防止のリソースプールを作りたいと思えば、そのドキュメントに沿って作業を行っていけば、望むものを構築することができる」と、より現場での活用を念頭に置いたソリューションを用意したとする。これらのソリューションは英文が多いが、徐々に日本語化が進められているほか、日本のパートナーから発信されたものもでてきており、「それらをうまく活用することで、企業内クラウドなどをより簡単に構築してもらいたい」としている。
また、新たに「インテル クラウド・ファインダー」というツールが提供される。ODCAでは、今後のデータセンターに欲しい機能などを要件定義しているが、そういった取り組みを行っている企業はどこなのか、実際に探すのは面倒であり、同ツールを活用すると、そうしたサービスプロバイダ各社がそれぞれどういったサービスを提供しているのかを比較しやすくなるという。「まだ生まれたばかりなので、これからコンテンツの拡充を図っていく。セキュリティや運用の透明性といったところを比較ポイントとして入力することで、そういった要件を満たすサービスプロバイダを抽出することができるようなサービスを提供していきたい」と今後の方針を掲げ、「良いもの作ってもなかなか世の中に知られないというサービサーなどを支援していきたい」とした。
なお同社ではクラウド2015ビジョンの進捗として、進んでいるものの、まだまだ課題が残されている状態であり、今後も活動を継続していくとするほか、2015年以降についてもオープンクラウドビジョンのもと、必要な標準化を推進し、業界全体で欲しいものを早く作る環境を構築していきたいとした。