中外製薬は10月19日、がんの再発・転移に関係すると考えられる大腸がん幹細胞の性質を有する細胞を培養可能な細胞株として樹立することに成功したと発表した。同成果は、同社研究本部と100%子会社のPharmaLogicals Research(シンガポール)、ならびに未来創薬研究所の連携によるもので、米国の科学雑誌「STEM CELLS」電子版に掲載された。

がん治療では、化学療法や手術などでがんを縮小・切除したにもかかわらず再発・転移が起こることが問題となっており、この原因の1つとしてがん幹細胞の存在が想定されている。がん幹細胞はがん組織に微量に存在すると考えられ、抗がん剤や手術などのがん治療から自らの姿を変えることで巧妙に治療から逃れ、患者の身体状態などの環境の変化により再び増殖を開始し、転移を起こすと考えられており、がんを根本的に治療するには、がん幹細胞を特異的に攻撃する治療薬を開発する必要があった。

がん幹細胞が存在することについての研究報告は数多く行われているものの、がん組織の中に微量しか存在しないがん幹細胞を組織から取り出し、その性質を把握することは困難であった。

今回、中外製薬は大腸がん患者のがん組織を免疫不全マウスに移植、継代を行った後、腫瘍組織からLGR5というたんぱく質を指標にがん幹細胞を取り出し、高純度で安定的に培養が可能な細胞株として樹立することに成功。得られた細胞株はLGR5というたんぱく質を特異的に発現しており、増殖性を有するがん幹細胞であったが、この細胞株を抗がん剤を添加した状態で培養した場合、増殖性のない薬剤耐性細胞に変化することを発見した。

また、この変化した細胞を抗がん剤のない状態に戻して培養すると、再び元の増殖性のあるがん幹細胞に戻ることを見出しており、研究グループではこの現象は、マウスを用いた実験でも再現されたことから、これらの結果は、がん治療において、極めて少数のがん幹細胞が性質を変化させ治療に抵抗して残存し、生体の環境ががん幹細胞にとって都合が良くなると性質を元に戻し再び増殖を開始、再発や転移を起こすというメカニズムが実際に存在することを裏付けるものだとの考えを示している。

さらに、このがん幹細胞に発現するたんぱく質を特定し、そのたんぱく質だけに結合する抗体を作製し、がん幹細胞を投与されたがん転移モデルマウスに投与したところ、他臓器への転移が抑制されることも確認したという。

同社では今後、今回の研究成果を発展させ、がん幹細胞を標的とした今までにない新しいコンセプトの治療薬の開発に取り組んでいくとしている。

今回の研究の概略