岡山大学などが参加する国際コンソーシアムは、オオムギの51億個の塩基からなるゲノム塩基配列の詳細な解読を実施し、さまざまな特徴を決定する遺伝子を2万6159個同定したことを発表した。
同成果は、農業生物資源研究所の石毛光雄 理事長、岡山大学 資源植物科学研究所の佐藤和広 教授、元 農業生物資源研究所 農業生物先端ゲノム研究センター 作物ゲノム研究ユニット ユニット長の松本隆氏、農業生物資源研究所農業生物先端ゲノム研究センター ゲノムインフォマティックスユニットの田中剛 主任研究員などが参加した6カ国で構成される「国際オオムギゲノム配列決定コンソーシアム(IBSC)」によるもので、詳細は科学雑誌「Nature」に掲載された。
生物の細胞には、その生物の形や性質を決定するための設計図「ゲノム」が存在する。ゲノムの実体はDNA(デオキシリボ核酸)であり、DNAは親から子へ受け継がれて遺伝する。DNAは4種類の塩基(アデニン:A、チミン:T、グアニン:G、シトシン:C)が数個から数十億個並んだ構造をしており、この塩基の配列の一部がタンパク質に翻訳され、酵素などとして生体内で機能する。
DNAの塩基の並び順(ゲノム塩基配列)を作物ごとに解読し、農業上有用な遺伝子を発見し、品種改良に活用していく取り組み(ゲノム育種)は現在、世界中で進められており、日本でもイネをはじめ、ダイズ、トウモロコシなど多くの作物のゲノム塩基配列が解読されてきている。オオムギは、世界でコムギ、イネ、ダイズ、トウモロコシに次ぐ生産量の作物だが、4億個のゲノム塩基配列を持つイネの約13倍に相当する51億個を有し、またその大部分が技術的に解読困難な繰り返し配列により構成されているため、これまでごく一部の配列しか解読されてこなかった。
今回の解読作業は最初に、2009~2011の3年の間、ドイツと米国が中心となり、超高速ゲノム解読装置(シーケンサー)を駆使して米国のビール用オオムギの標準品種である「Morex」のゲノム塩基配列の解読が進められ、約51億個のうちの98%に相当する49.8億個が解読された。解読されたゲノム塩基配列のうち84%は転移因子、単純繰り返し配列などの特定の配列が数回から数千回繰り返して存在することが判明。通常、繰り返し配列領域には遺伝子が存在しないと考えられているため、残りの16%にオオムギの形質を決定する遺伝子が存在していることとなった。
次に、日本とドイツにより、Morexのゲノム塩基配列を、他の作物の遺伝子情報との比較などを行い、オオムギの遺伝子を2万6159個同定した。この中で岡山大と生物研は、「はるな二条」の完全長cDNAを作成し、Morexのゲノム塩基配列と比較することにより、その遺伝子がゲノム中のどこに位置するのかを正確に決定することで、遺伝子同定に貢献したという。
そして最後に、各国で4種類の栽培オオムギ品種および1種類の野生オオムギのゲノム塩基配列を解読し、Morex の配列と比較して、合計1500万個に上る一塩基置換多型が発見された。これらは、今後オオムギのDNAマーカー選抜育種を進める上でゲノム上のマーカーになるという。
またこの1500万個の多型の位置を2万6159個の遺伝子の位置と比較したところ、35万個の多型が遺伝子中にあることが判明。これらの多型の一部がそれぞれのオオムギの形や性質の差を決めていることが示唆されたという。
これらの結果を受けて、研究グループではイネ科の共通先祖から、ムギ類がどのようにして進化してきたのかについて、オオムギのゲノム塩基配列をイネ、トウモロコシなど他のイネ科作物のゲノム塩基配列と比較することで、その謎に迫ることができるとの期待を示す。
そのため、研究グループは今後もオオムギゲノム配列を完全に決定するため、国際コンソーシアムとして活動 を継続していく予定とするほか、ムギ類に属する作物(パンコムギ、マカロニコムギ、オオムギ、ライムギ)では、それぞれの遺伝子の塩基配列の共通性が高いと考えられるため、今回の研究成果が、それらムギ類全般の遺伝子の構造や機能の解明につながると期待されるとしている。
さらに多くの配列多型情報からゲノム育種に必要なDNAマーカーを多数作出することが可能になるため、これらを用いることで病気に強いムギ、穂発芽しにくいムギ、収量の多いムギなど、日本における麦の自給率向上につながる新品種の開発が期待されるようになるともコメントしている。