俳優/映画監督として、輝かしいキャリアを築き上げているメル・ギブソン主演のアクション映画『キック・オーバー』が2012年10月13日より公開される。この作品で監督デビューしたエイドリアン・グランバーグは、メル・ギブソン監督作品『アポカリプト』や主演作品『復讐捜査線』などで助監督を務めていた人物。自身のデビュー作で、盟友メル・ギブソンの魅力を十二分に引き出したグランバーグ監督に話を訊いた。

リアルなメキシコの姿を描く

――映画『キック・オーバー』はどのようにして生まれたのでしょうか?

エイドリアン・グランバーグ(以下、グランバーグ)「『メキシコの刑務所に入れられるアメリカ人』というこの映画のアイデアは、メル・ギブソンのものです。この設定自体は、あってもおかしくない話なのですが、それを商業作品という枠組みの中で、これまで無いような見せ方で描きたかったのです」

エイドリアン・グランバーグ
『キック・オーバー』(2011年)で長編映画監督デビュー(※共同脚本も担当)。第1助監督を務めた『アポカリプト』(2006年)でメル・ギブソンと組み、ギブソンが主演した『復讐捜査線』(2010年)ではセカンドユニットを率いた。第1助監督として参加した作品は、『マイ・ボディガード』(2004年)、『レジェンド・オブ・ゾロ』(2005年)、『リミッツ・オブ・コントロール』(2009年)、『ウォール・ストリート』(2010年)など多数。現在も『キック・オーバー』の舞台であるメキシコシティー在住。写真はエイドリアン・グランバーグ監督と、『キック・オーバー』にキッド役で出演した子役のケビン・ヘルナンデス
(C) 2011 ICON FILMS, INC.

――世界中の人々がニュースで見たり、イメージとして抱いているような、メキシコの最も危険な部分というか、雑然とした雰囲気が作品全体に漂っていますね。

グランバーグ「この映画のリアリズムは、ロケハンをしてるうちにメキシコのある刑務所を見つけたことから実現できたのです。おかげで実際の刑務所の雰囲気がよく分かったし、美術/衣装/キャスティング/エキストラ等の要素が全て自然と上手く噛み合いました。それがファンタジーを含んだこの映画の世界感に、リアリティーを与えたのだと思います」

――この映画はセットメインではなく、実際にメキシコロケで撮影されている部分が多いようですね。

グランバーグ「メキシコは僕にとってホームみたいなものだから、とても撮影しやすかったですね」

――この作品は、メキシコの内側と外側、両方からの視点を持ち合わせていますね。

グランバーグ「そうですね。僕はメキシコに住んでいるので、海外の人がどういう風にメキシコを見ているかも知っているし、どちらの世界の側からもメキシコを理解しているつもりです。何年もメキシコで仕事や生活をしているので、映画製作の実務的な面に関しても物事の進め方や必要な物の入手法はわかっています。だからロケハンだったりキャスティング/エキストラを集める作業がメキシコでは比較的楽でした。

――刑務所が犯罪者によって支配されていて、実際の街と同じように機能しているという設定も、非常に衝撃的でした。

グランバーグ「映画はイグナシオ・アジェンデ刑務所で撮影されています。数カ所の刑務所を訪れたのですが、映画のロケ地の刑務所が、実際にまだ使用されてる時期に訪れました。丁度、政府が『住む場所に適してない』などの理由で刑務所の居住者を追い出してる真っ最中だったので、最高のタイミングでした。空いた刑務所の鍵をそのまま借りて、そこで映画を撮影したのです(笑)」

キック・オーバー
アメリカでマフィアの大金を強奪した元軍人のドライバー(メル・ギブソン)は、メキシコ最悪と言われる凶悪犯専用の刑務所に収監される。金さえあれば何でも思い通りになるこの場所で、ドライバーは生き残り、消えた強奪金を取り戻すために奔走するのだった
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