大手半導体メーカーのFreescale Semiconductorは、6月18日~21日(現地時間)に米国テキサス州サンアントニオで顧客向けの講演会兼展示会「Freescale Technology Forum Americas(FTF Americas 2012)」を開催した。このイベントに合わせてFreescaleは19日(現地時間)、自動車用電子機器が機能安全規格に準拠するためのソリューション「SafeAssure」を発表した。
「SafeAssure」の担当者である、Automotive MarketingのMark O'Donnell氏とProduct Line ManagerのDavid Lopez氏にインタビューする機会を得たので、新製品の位置付けと概要をご紹介しよう。
機能安全と本質安全
機能安全とは安全に対する考え方を示す用語で、「本質安全」と対比される形で定義されている。「本質安全」の定義は、「機械が人間や環境に及ぼす危害そのものを低減、あるいは除去する」である。本質安全でよく用いられる例は、鉄道の踏切で発生する事故の危害を除去するために、立体交差にして踏切そのものを取り除くというものだ。自動車と歩行者の接触事故では、自動車専用道路によって歩行者と自動車を分離するという手法が本質安全に相当する。
これに対して「機能的工夫(安全を確保する機能:安全機能)を導入して、許容できるレベルの安全を確保すること」が「機能安全」である。鉄道の踏切の例では、警報器や遮断機、列車停止装置などを設けることが機能安全に相当する。自動車と歩行者の接触事故では、車道と歩道を物理的に区切ることや境界にガードレールを設けることなどが機能安全になる。
自動車業界と機能安全
機能安全の考え方が技術仕様として制定されたのは1990年代の末である。国際電気標準会議(IEC)が1999年に「電子的安全装置に関する規格:IEC 61508」を発行した。自動車業界は当初、このIEC 61508を自動車用電子機器の開発に適用した。しかしIEC 61508は元々は産業プラントにおける安全確保を目的として策定されたため、自動車業界での適用には無理があるとの意見が強まった。
そこで2000年代の半ばに国際標準化機構(ISO)で作業部会が発足し、2011年11月には「自動車向け電子制御系の安全規格(機能安全):ISO 26262」が発行された。
「ISO 26262」では乗用車という数多くのサブシステムで構成される巨大なシステムを対象に、ハードウェア(電子系)とソフトウェア(マイコンのファームウェア)を含めた各サブシステム全体で一定の安全レベルを確保する。例えばセンサーとマイクロプロセッサ、アクチュエータの組み合わせによるサブシステムを考えよう。個々の部品レベルでは正常であったとしても、信号のやり取りによってはサブシステム全体が上手く動かないことがある。そこでISO 26262では、サブシステム全体の安全も考慮した規格となっている。
ISO 26262で定義する安全レベル(車載安全度水準(ASIL:Automotive Safety Integrity Level))には4つの段階があり、「ASIL A」~「ASIL D」としてA、B、C、Dと区分けされている。最も厳しい安全レベルは「ASIL D」である。
マイコンと電力管理ICをソリューションとして提供
ISO 26262の「ASIL A」~「ASIL D」に対応するサブシステムを素早く開発するためにFreescaleが提供するのが、マイコン「Qorivva MPC574xP」と電力管理IC「MC33906/7/8」である。Qorivva MPC574xPはデュアルCPUコアを内蔵し、遅延型ロックステップによって「ASIL D」レベルの機能安全を達成できる。MC33906/7/8はDC-DCコンバータを内蔵しており、マイコンやSoCなどへ電源を供給する。
この機能安全ソリューションの採用が期待される用途は、シャシー系と安全系の電子システムである。具体的には、エアバッグ・システム、レーダー連動の適応型クルーズ制御システム、電動パワー・ステアリング、アクティブ・サスペンション、ブレーキング時に車体を安定に保つシステム、などだ。
Freescaleが提供する機能安全ソリューション。マイコン「Qorivva MPC574xP」と電力管理IC「MC33906/7/8」である。なおSBCとはSystem Basis Chipの略称 |
マイコン「Qorivva MPC574xP」の概要と内部ブロック。動作周波数は180MHz。2.5MBのフラッシュメモリと384KBのSRAMを内蔵する。製造技術は55nmプロセスを採用 |
最新の話題が聞けるFTF Japan 2012
さて、ここまでFTF Americas 2012の話題をお伝えしてきたが、これらの話題は2012年10月22日、23日に東京のザ・プリンスパークタワー東京にて開催される「Freescale Technology Forum 2012」のテクニカル・セッションで聞くことができるほか、テクノロジー・ラボにて実際に見ることが可能だ。同社は組込業界の未来をドライブすることをコミットしている。また、日本でカンファレンスを実施する半導体ベンダが徐々に減ってきていることも事実だ。そうした状況の中で、半導体/組込分野の先端技術を幅広く見ることができる同フォーラムに参加し、組込分野の先端技術を見ることはエレクトロニクス分野の将来を見極めるうえでも重要になってくるはずだ。
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