東京大学は10月9日、列車への飛び込み自殺を防止する手段として、鉄道会社により近年用いられるようになった駅に設置された青色灯の効果について、首都圏のある鉄道会社のデータを用いて、青色灯設置と自殺者数の分析を行った結果、青色灯の設置後には自殺者数が平均して約84%下落することがわかったと発表した。
成果は、東大大学院 経済学研究科の澤田康幸教授、米シラキュース大学の上田路子氏、米ノーステキサス大学の松林哲也氏らの国際共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、9月11日付けで「Journal of Affective Disorders, Elsevier」に掲載された。
鉄道駅や踏切における列車への飛び込み自殺は多くの国で大きな社会問題の1つとなっている。特に日本では、自殺による輸送障害(列車の運休や30分以上の遅延など)は2006年度に534件であったものが、2009年度には682件と3年間に3割近くも増えており(国土交通省の調査による)、自殺そのものを抑止することももちろん重要だが、鉄道自殺自体の抑止をすることも自殺対策全体の中でも重要な課題となっている。
鉄道自殺の影響は、目撃者や関係者に精神的なショックを与えたり、安全な鉄道の運行を妨げたりするだけでなく、到着の遅延を招くなど大きな社会的損失を生み出す原因となってしまう。そうしたことから、緊急の対策が必要な問題とされているのである。そこで近年になって国内では、自殺抑止対策として、JR各社をはじめとする多数の鉄道会社が駅のホーム端や踏切において青色灯の設置を進めてきた(点灯は夜間のみ)。青色灯には人間の気持ちを落ち着ける作用があるとされ、自殺を思いとどまらせる効果への期待がその背景にある。
しかし、自殺を試みる人々の心理・行動に対して、青色照明が持つ効果について、実は科学的に証明されているわけではない。青色灯の設置によって自殺者数が減ったことを示す科学的証拠は、これまで提示されていなかったのである。
そこで研究グループは今回、ある鉄道会社の2000年から2010年のデータを用いて、駅における青色灯設置と自殺者数についての分析を実施。すると、青色灯の設置後には自殺者数が平均して約84%下落することが明らかになったというわけだ。ちなみに自殺者数の同様の減少は青色灯未設置の駅においては観察されていない。なお、駅によって自殺件数に違いが存在するため、分析の際には駅の特性などが考慮に入れられている。
今回の成果は鉄道駅における青色灯の自殺防止効果を厳密な統計解析からはじめて示した研究となる。研究グループによれば、今後の自殺防止対策に重要な示唆を与えると予想されるという。
鉄道駅における自殺防止対策としてホームドアの設置が効果的であることがこれまで論じられてきたが、プラットホームの改良等が必要となるためその設置費用が大きいことがネックとなっており、なかなか進んでいない。
一方、ホームドアに比べ青色灯設置の費用は低いと考えられるため(昼間は効果がないとしても)、費用対効果という点から考えて、青色灯の設置も、ホームドアに加えて有効な自殺防止の方法だといえるであろうと、研究グループはコメントしている。