東北大学(東北大)は、物質・材料研究機構(NIMS)と共同で、ガラス中に5nm以下の微小な反強誘電性NaNbO3ナノ結晶の形成を確認し、そのメカニズム解明に成功したと発表した。
同成果は、同大 大学院工学研究科 応用物理学専攻 高橋儀宏助教、藤原巧教授、NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 長田実博士らによるもの。詳細は、英国ネイチャー系オンライン科学誌「Scientific Reports」に掲載される予定。
電子材料などへ応用されている誘電体は現代社会に必要不可欠な材料であり、光や電子を自在に制御する先端材料として研究開発が進められている。実用的には、Pb(Zr,Ti)O3など鉛を含む強誘電体が利用される一方、環境問題の高まりから非鉛系代替材料の開発が強く求められている。また、サイズを微小化したナノ結晶によって、その誘電機能を飛躍的に高める研究開発も活発に行われている。
この中で、酸化物ガラスから熱処理などにより機能性結晶を析出させる「結晶化ガラス法」は、多様な元素構成のもとで析出結晶サイズの制御が可能であることから、鉛を含まないナノ誘電材料(例えば、Nb系酸化物結晶など)を創製する有力な手法と言われている。五酸化ニオブ(Nb2O5)はガラス中に多量に包含できるが、ランダムな構造を持つガラス中のNb配位多面体の振る舞いは完全には理解されていなかった。これは非鉛系として注目されるNb系ナノ結晶の誘電特性を決定する重要な課題であり、さらにランダム系物質の相変態に関わる未解明問題であると位置づけられる。
今回の研究では、藤原研究室で発見されたNb系誘電体ナノ結晶を形成するBaO-Na2O-P2O5-Nb2O5系ガラスにおいて、昇温時における非弾性光散乱のその場観測を実施し、得られる分光学的情報であるボソンピーク、ラマンスペクトル、そして準弾性散乱を解析することでNb配位多面体の秩序化ダイナミクスを捉えることに成功した。ガラスの光散乱スペクトルの低波数領域において、弾性散乱であるレーリー散乱の他に、ボソンピークとそれより低波数側に準弾性散乱が観測される。昇温過程における試料ガラスのスペクトルを観測した結果、ガラス転移温度(Tg)以下の低温領域において準弾性散乱強度が400℃で極大を示し、さらにTg以上の高温領域で準弾性散乱強度が激増するといった特異な振る舞いが確認されたという。
これに加えて、種々の条件で熱処理を施すことにより、試料ガラスから5nm以下のNaNbO3相の形成に成功した。これらナノ結晶化試料における物性評価を組み合わせることで、低温および高温領域の準弾性散乱の振る舞いは、Nb配位多面体付近におけるイオン伝導、そしてナノメトリック相分離によるNaNbO3ナノ結晶の形成によるものとしている。
今回の結果により、非破壊・非接触という分光計測の利点を有効に活用することで、室温のガラス状態から高温のナノ結晶形成までの一連のイベントをガラス中の配位多面体に着目し評価が可能となったこと、さらに通常合成が困難である5nm以下のNb系誘電結晶のナノ相分離による形成を実証できたことは、強誘電体におけるサイズ効果の解明や非鉛系の誘電材料開発を推進すると期待されると研究グループではコメント。
さらに、分光計測により得られる現象とガラス中で発生するイベントを結びつけたことで、これまでは熱処理「後」の事後の結果観察に留まっていたが、熱処理「中」に準弾性散乱を観測することで、ガラス~過冷却液体~ナノ結晶という相変態過程におけるNb配位多面体の振る舞いを明らかにし、ガラスの相変態ダイナミクスの理解に有力な情報を与えることができるようになった。
また、ガラスのナノ結晶形性は、結晶単体では一般に困難とされる誘電ナノ粒子の粒径制御や高分散化、光学的透明性を可能とする。これらはナノ誘電材料開発において、実用上極めて効果的であると同時に、安価に作製可能なガラス材料をベースとする革新的な光・電子制御デバイスの創出を具現化するものと期待されるとしている。