顧客データを分析して競争力ある販売戦略につなげる──こうした施策が、すべての営利企業にとって"当然の取り組み"であるというのは疑う余地のないところだろう。
ところが、これをいざ実践するとなると、話は大きく変わってくる。満足のいく分析が行えるまでには越え難いさまざまな障壁があり、上記の"当然の取り組み"は、瞬く間に"理想"へと変わってしまうのだ。何百万とある国内企業を見渡しても、実践できている企業はほんのごく一握りに限られる。
そうしたなか、実りある顧客データ分析を実践する"境地"へと近づきつつあるのが、キヤノンMJ ITグループのスーパーストリームである。経営基盤ソリューション「SuperStream」シリーズが財務会計・人事/給与分野でトップシェアを誇り、6700社ものユーザー企業を抱える同社では、Salesforceに取り込んだ膨大なデータを、バリオセキュア・ネットワークスが提供するクラウドBIダッシュボード「MotionBoard for Salesforce(以下、MBSF)」で分析と見える化に成功。独自の運用施策と掛け合わせ、販売戦略の大幅強化を実現している。
東京商工リサーチの企業データを取り込み、実りある分析を開始
スーパーストリーム マーケティング企画部 部長の山田誠氏。10月19日(金)に目黒雅叙園で開催されるソーシャル・モバイル・ビッグデータをテーマにしたイベントで登壇予定。 |
2000年よりSiebelのCRMシステムを使用していたスーパーストリームでは、外勤の多い営業担当者やプリセールスエンジニアが、社外からブラウザでセキュアにシステムを利用できるよう、2005年にクラウド型CRM「Salesforce」に切り替えた。現在では全社員の3分の1に当たる約40アカウントを契約するなど、Salesforceはスーパーストリームにとって業務に欠かせない存在となっている。
通常は既存顧客の関係強化を目的として利用されるSalesforceだが、スーパーストリームではさらに発展的な活用法を見出している。2011年に、「まだアプローチできていない企業の情報も見える化したい」との意向から、東京商工リサーチ(TSR)が提供する年商30億円以上の国内企業データを購入してSalesforceに登録。これにより、SuperStreamのシェアを年商別や業種別で正確に把握可能になったうえ、新規営業に対する優先順位づけも行えるようになったのである。
スーパーストリームでマーケティング企画部の部長を務める山田誠氏は、この施策について次のように振り返る。
「一見単純なことであり、誰もがやりたいと思いつくことでしょうが、実際に行っている企業はなかなかないと自負しています。既存のユーザー情報と併せてTSRのデータを分析することで、どこのマーケットを集中的に攻めるべきかなど、パートナーに対しても効果的な営業提案ができるようになりました」
TSRのデータを取り込んだことで、Salesforceは従来にも増して重要な資産データとなった。その一方で、製品戦略や営業戦略を練る上で、各種のレポートを「もっと早く」、「もっと美しく」ビジュアル化したいといったニーズも生まれてきたのである。
数日がかりのExcel作業では販売戦略も"水泡"に
上記のような環境を手に入れたスーパーストリームでは、「いくつかの理由から、そのままの状態でSalesforceを利用するのは難しくなってきた」(山田氏)という。
最初に挙げられるのが、分析業務の負荷。当時、スーパーストリームでは、分析を行う際にデータをExcelに落としたうえで、手作業で集計してグラフを作成していた。しかし、ユーザー企業は6700社に上るうえ、契約に至る前の企業も多数あるため、分析対象データは膨大な量になる。さらに、前述のTSRのデータも加わったことで、もはやExcelでは手に負えない状況に陥っていたという。
「少なくとも決算前にはデータを集計するわけですが、Excelで行うと数日がかりの作業になります。作業を行うマシンによってはフリーズすることもしばしば。一度やったら、とてもじゃないですが、しばらくはもう手を付けたくないという気持ちになります」(山田氏)
次の問題は、リアルタイム性の欠如だ。当然ながらスーパーストリームが目指すのは最新状況を見据えたデータ分析なのだが、前述のとおり、一度作った資料を再度ビジュアル化するには相当な工数を要する。そのため現場では、仕方なく古くなった資料を使い続けるような事態に陥っていたという。
「頑張っていろんなものを見える化できるようにしても、リアルタイム性が失われてしまっては効果がほとんどなくなってしまいます。市場の変化とともに企業のニーズも変わっていくわけですから、当然ながら、1年前のデータを元にした戦略が現在も通用するとは限りません」(山田氏)
また、Salesforce側が提供するレポート機能のパターンが限られている点も憂慮された。分析の切り口によって伝わりやすい表示形式を選びたいといのが分析者の本音だろうが、それが叶わぬ場面も多かったという。
山田氏はそれまでの環境についてこう評する。「Salesforceは間違いなく素晴らしいシステムですが、あくまでも現場の今の動きを把握するためのものという印象です。集計機能やグラフ化機能は他で補う必要性を感じました。やはりビジュアル化ができないと、経営層や管理職が戦略を立てるための俯瞰した視点を得ることは難しいですね」