国や業種を問わず大手企業の不祥事が折に触れて報じられる中、従業員の不祥事が会社にダメージを及ぼすことはあらためて説明する必要はないだろう。体外的には企業の信頼やブランドに傷がついたり、内部でも不協和音が生じたりスタッフ間の雰囲気に影響が出る……単純に財務面だけでははかれない損失だ。「不祥事を働くような人」と面接で判断できれば採用しなかったはずだ。

企業では、「良い社員」と思われている人が悪いことをするケースも少なくない。なぜそのようなことが起きるのだろう?

この点について、オフィスでの倫理について研究した結果が発表されている。今回は、要点をまとめたOpen Forumの記事「Why Good Employees Do Bad Things(良い従業員がなぜ悪事を働くのか)」を紹介したい。

この研究はオランダのエラスムス大学ロッテルダムのビジネススクール教授、Muel Kaptein氏が行ったもので、「Why Do Good People Sometimes Do Bad Things?: 52 Reflections on Ethics at Work」としてまとめた。一線を越えてしまう理由を修正や行動、心理の面から探り、企業の倫理的振る舞いを推奨する方法を考察している。

最初に紹介されているのは、視野が狭くなるという状態だ。

例えば、大型破綻がSOX(Sarbanes-Oxley Act of 2002)法成立につながり、映画にもなったEnron。同社の場合、売上成績の良い従業員に多額の報酬を支払うようになったため、目標に目がいきすぎてモラルや倫理面での感覚が麻痺していったという。

目標設定は重要だが、目標が簡単に到達できないような難しいもので、さらに数値など測定がしやすい場合、従業員は自然とプレッシャーを感じる。

従業員や企業全体が目標に執着・固執するようになると、倫理面が軽視されはじめるという。どのような目標を設定するのか、どのような行動を奨励するのかに注意する必要がありそうだ。

同様に、時間的期限もモラルを失わせる可能性があるという。

締め切りや期限は効率化の改善や集中などの良い効果も生むが、倫理的によくない結果につながることもあるようだ。Kaptein氏はここで、神学の学生数人に対しある建物で説教をし、別の建物に移動するという実験を行った。建物の移動中に困っている盲人に会うという設定だ。

この実験では、時間に余裕があるときは全員が盲人を助けたが、遅れているときは63%、「すぐに行くように」と急かされると90%が無視したという。

人は、締め切りにばかり注意がいくと周囲が見えなくなる。この報告では、考える時間を持たせる方を優先すべきだと助言している。