産業技術総合研究所(産総研)は10月3日、イオン液体の電解液とカーボンナノチューブ(CNT)からなる「ゲル空気極」(画像1)を用いて、酸素雰囲気中だけではなく、空気中でも作動可能な「リチウム-空気電池」を開発したと発表した。

成果は、産総研 エネルギー技術研究部門の上席研究員兼エネルギー界面技術グループ 研究グループ長の周豪慎氏と、張涛特別研究員らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、独学術誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載された。

画像1 リチウム-空気電池に使われる従来の空気極と今回開発されたゲル空気極の模式図(左)。ゲル空気極内の「電子伝導パス」、「イオン伝導パス」、「空気拡散パス」の模式図(右)。右図の糸状のものはカーボンナノチューブ。右図上部はイオン液体のイオン(紫)と陽イオン(緑)

現在、電気自動車にはリチウムイオン電池が搭載されているが、その性能は十分とはいえず、より長距離を走行できる高性能蓄電池の開発が求められているところだ。そこで、理論的には現在のリチウムイオン電池の約5~8倍の重量エネルギー密度を持つリチウム-空気電池がポストリチウムイオン電池として注目されている。

しかし、電解液に有機電解液を用いたリチウム-空気電池では、有機電解液の発火、蒸発、分解、空気中水分の溶解などの課題がある。そのため、より安定した電解液材料の探索が続けられているのが現状だ。

また空気中の窒素、水分などが有機電解液に溶け込んでしまうと、負極の金属リチウムと化学的に反応する恐れがあるため、有機電解液を用いたリチウム-空気電池の動作試験は純酸素雰囲気中で行わざるを得ないという問題もあった。

産総研では、次世代「リチウムイオン電池」の実用化を目指して研究開発を進めており、これまで、電極材料をナノ構造化することで大出力化が期待できることを示してきているほか、エネルギー密度の向上が期待されるハイブリッド電解液型リチウム-空気電池)の研究開発を続けており、その一環として今回の成果が得られた形だ。

リチウム-空気電池は空気中の酸素を電気化学反応に利用しており、放電する場合には、外部回路を経由してきた電子と、電解液中のリチウムイオンが、空気極中に拡散してきた酸素と反応して、「過酸化リチウム(Li2O2)」になるというのが理想的な反応である。

そして安定な放電を継続し、大きな容量を得るためには、空気極全体に3次元的な電子伝導パス、イオン伝導パス、空気拡散パスがなければならない。

しかし、従来の有機電解液を用いたリチウム-空気電池では、空気極の細孔が有機電解液で満たされているため、空気中の酸素ではなく有機電解液に溶存している酸素が主にリチウムイオンと反応していると考えられている。そのため、酸素の有機電解液中の溶存量や拡散する速度などが電池の性能に影響すると考えられていた。

また、溶存している酸素が有機電解液と反応しやすいため、理想的な電気化学反応が進行せずに、放電時の電圧、容量、出力特性が著しく悪くなってしまうという問題もある。

これらの問題点を解決するために、電解液として燃えにくく、揮発しないイオン液体を用いると共に、空気極として液体に濡れない撥水性ゲルを用いることにしたというわけだ。

イオン液体は空気中で安定しており、10-3Scm-1台の比較的高いリチウムイオン伝導度を持つ。また、酸素に対しても比較的高い安定性を示すという報告もある。

空気極として、電子伝導パスの役割を担うCNTとイオン伝導パスの役割を担うイオン液体だけを混合した準固体状の撥水性ゲルが作製された。このゲル中の細孔にはイオン液体や水が浸入しないことが確認され、これらの細孔が空気拡散パスとなるため、空気中の酸素がこのパスを通じて、安定して供給されるという仕組みだ。

このような構成のリチウム-空気電池に、空気雰囲気下で一定の電流を流した場合の電池の充放電特性について調べたところ、放電と充電が可能であることが確認された(画像2・3)。

画像2(左)は、開発されたリチウム-空気電池の1000mAh/gCNTの定容量による空気中での充放電サイクル特性を表したグラフ。画像3は、200mA/gCNTの定電流による空気中での充放電特性を表したグラフ

すなわち、イオン液体とゲル空気極を用いたリチウム-空気電池によって、これまで困難であった空気中において可逆的かつ大容量で作動させることに成功したのである。

また、CNTの重量あたり10000mAh/g以上の容量を得られることもわかった(画像3)ほか、一定の容量(1000mAh/g)に制限して充放電を行うことによって、10サイクルの間安定した充放電特性が得られた(画像2)。

研究グループは今後、撥水性ゲル空気極の性能向上、電池構成の最適化などを行い、より優れた性能のリチウム-空気電池の開発を目指すとしている。