日本マイクロソフトと東京大学(東大)先端科学技術研究センターは、Microsoftの入力デバイス「Kinect for Windows」を応用し、重度の障害者の活動を支援するソリューション「OAK(Observation and Access with Kinect)」を開発したことを発表した。
マイクロソフト ディベロップメント代表取締役社長 兼 日本マイクロソフト 業務執行役員 最高技術責任者の加治佐俊一氏は「Kinectはナチュラルユーザーインタフェース(NUI)であるが、もう1つ、人間中心のコンピューティングとして、人間の動きという膨大なデータを処理するシステム。2012年はKinect for Windowsにとって重要な年で、さまざまなソリューションで採用されるようになってきた」としている。また、SDKも進化を続けており、10月8日の週には、Windos 8のサポートなどを施した新バージョンの提供が予定されており、「ソフトウェアのアップデートで使い方が広がっていく」ということを強調した。
OAKもSDKが2012年5月にバージョン1.5にアップデートされて開発が進んだソリューションで、脳性まひや脊髄性筋萎縮症などにより重度の障害を持つ人の口の開閉や手の動きといった任意の動きをKinect for Windowsのセンサで検出し、意思表示や能動的に活動したりすることを目的としたもの。
こうしたアクセシビリティに向けた活動についてMicrosoftでは1988年から、日本でも1998年から進めており、2007年より障害のある学生のための大学・社会体験プログラム「DO-IT Japan」を開始。2012年2月には「DO-IT RaRa:学習における合理的配慮研究アライアンス」を発足、障害児のPCを使った試験を支援するソフトウェア「Lime」の開発、無償提供も開始した。今回のOAKもその延長線上にあるもので、Kinectに注目した理由を研究開発を担う東大 先端科学技術研究センター 人間支援工学分野の中邑賢龍 教授は「従来も舌でスイッチを押すといったことは行われてきたし、専用カメラを用いて動きを検知し、それをトリガーにするといったシステムはあった。しかし、障害の度合いが高まれば高まるほど、大型で高価な機械が必要だっが。Kinectだと、そうした機材に比べ2~3桁安くでき、かつ自分のPCにつないで使えるというメリットがある」と説明する。
重度障害を持つ人たちを支援する技術はこれまでにもあったが、高価であったり、大型であったりといった課題があった。しかし、近年、世界的なトレンドとして、既存の民生技術を活用しようという動きが出てきたという |
OAKのベースとなるのがKinectのRGBカメラと3D深度カメラの組み合わせ。これによりカメラからどの程度離れたところに人が居るのか、といったことが分かるようになり、これを応用した3つの機能が搭載されている。
1つ目の機能は「フェイススイッチ」で、例えば、これまで物理的なスイッチで操作が難しかった人が、顔の動き、例えば舌を出すといった行為で、スイッチのオン/オフなどを行うことを可能とする。顔の角度や目の動きなどでも可能だという。
2つ目の機能は「エアスイッチ」で、空間に仮想ボタンを配置し、そのエリアに身体の一部が触れることでスイッチのオン/オフを行うというもの。発想のもとはエアギターだという。
そして3つ目は「モーションヒストリ」カメラで動きをログとして取得するというもので、これによりどういった身体の動きがしやすいのか、どういうときにどういう動きをしているのかを後で知りやすくなるという。
なお、10月5日から、東大先端研がキッザニアにてサイエンスフェアを開催するが、そこで全国から16名の重度重複障害のある子どもと家族を招待して、実際にOAKを利用したパソコン操作のアクティビティの体験会を実施する予定。「これまではキッザニアなどの施設に重度障害のある子供が来ても見るだけというのがほとんどであったが、本当に見るだけしかできないのか、という疑問があった。OAKを使えば、実際にそうした体験を彼/彼女らも感じることができる」とのことで、今後は全国で体験会を開催していくほか、OAKをパッケージ製品として提供していくことも考えているとする。
こうした体験会の具体的なスケジュールはまだ決まっていないが、少なくともすでに香川県の支援学校と話し合いを進めており、11月には四国で開催したいとしている。また、製品としての販売については、東大も日本マイクロソフトも販売はしないため、パートナー企業と組んで販売を行っていくこととなる。具体的な販売開始時期的には未定だが、機能的にはほぼ完成しているが、実際の利用者の立場を考えた場合、ユーザーインタフェースをもう少し見やすくするなどの改良が必要であったり、対応する部位の追加などが必要としており、それらの改良を行い、遅くとも年度内には、販売にこぎつけたいとしている。