奈良県立医科大学と中外製薬は、独自に創製した血液凝固第VIII因子の機能を代替する作用を有するバイスペシフィック抗体が血友病Aモデル動物において有効に止血作用を示すことを確認したと発表した。同成果は、「Nature Medicine」電子版に掲載された。
血友病Aは、第VIII因子が欠乏し血液凝固反応が正常に進まなくなる遺伝性疾患で、小児より反復する重篤な出血症状を呈する病気である。第VIII因子は、活性型第IX因子および第X因子に同時に結合して、活性型第IX因子による第X因子の活性化およびその結果として生じる血液凝固反応を促進するため、血友病Aの治療には、出血を止める目的あるいは出血を予防する目的で、通常、静脈注射による第VIII因子製剤の補充投与が行われる。
近年は、出血を常時予防する目的で、週に数回静脈内に第VIII因子製剤を投与する定期補充療法が広く実施されているが、血友病Aでは第VIII因子が生来欠乏しているため、補充した第VIII因子製剤を異物として排除する中和抗体(インヒビター)が産生されることがあり、この場合、第VIII因子製剤による止血効果は十分に発揮されなくなるという課題があった。
今回の研究では、同バイスペシフィック抗体が活性型第IX因子および第X因子と同時に結合することで第VIII因子と同様の機能を発揮し、第VIII因子がない状態、さらには第VIII因子に対するインヒビターが存在する状態でも血液凝固反応を促進すること、非臨床の動物モデルで止血作用を示すこと、そして高い持続性と皮下投与の可能性を有することが明らかとなった。
これらの結果から、第VIII因子の機能を代替する同バイスペシフィック抗体は、インヒビターの有無に関わらず週1回の頻度の皮下投与で出血予防効果を示すことが期待され、血友病A治療において新しい治療コンセプトを提供するものと考えられるという。