東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)は、M51銀河に現れた超新星「SN2011dh」について、爆発前の場所で観測されていた「黄色超巨星」が起源であることを、爆発の新たな理論的モデルを用いて突き止め、同時にこれまで超新星爆発を起こすと考えられていなかった黄色超巨星が爆発に至る進化の道筋の解明にも成功したと発表した。

成果は、カブリIPMUのMelina Bersten特任研究員らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、9月20日付けで天文学術誌「Astrophysical Journal」に掲載された。

「重力崩壊型超」新星爆発を引き起こす星の性質や爆発の多様性の起源の追究は、宇宙物理学において非常に重要な課題といえる。重力崩壊型超新星爆発を起こすほど大きな質量の星は、爆発の直前には赤色超巨星か「青色コンパクト星(ウォルフ・ライエ星)」に進化していると考えられてきた。しかし最近の超新星の観測で爆発前の星として、黄色超巨星が見つかったため、大質量の星の進化を解明する上で問題となっていたのである。

M51銀河に出現した超新星SN2011dh(画像1・2)は、地球から比較的近いため、2011年に現れた超新星の中で最も明るく、最もよく研究された超新星だ。初期のスペクトルに水素の輝線が見られた後ヘリウムが主要成分のスペクトルへと移行したことから「IIb型」超新星と分類されている。このことは超新星となる星が爆発前に水素が主要成分の外層をほとんど失っていたことを示す。

画像1(左)がM51銀河の超新星SN2011dhの爆発前で、画像2が爆発後の観測写真。(c) Conrad Jung

ハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたこの超新星の爆発前の画像を検索して、2つの研究グループが独立して超新星の場所に星を発見。そして光学観測によると、この星は黄色超巨星と見られた(画像3)。

しかし、恒星進化モデルによると、重力崩壊型の超新星爆発を起こすような重い星は爆発直前には重さに応じて赤色超巨星(比較的軽い場合)もしくは青色コンパクト星(比較的重い場合)に進化しているはずで、進化の途中である黄色超巨星は超新星爆発を起こすはずはないと考えられていたのである。

さらに、SN2011dhの早期の光学観測や電波観測に基づき、爆発した星はコンパクト星であり、発見された黄色超巨星は爆発した星の伴星もしくは超新星とは無関係で、偶然同じ場所に観測されたと考える研究者もいた。

今回の研究では、初期の光度曲線を流体力学的計算によってモデル化することで、これまで考えられていたシナリオとは違って、爆発した星が黄色超巨星であると考えられる証拠をとらえた点が特徴だ。すなわち、画像4で示されているように、爆発した星が黄色超巨星である場合にのみ、観測された光度曲線をよく再現できたのである。

画像3。今回の研究で明らかになったSN2011dhの爆発前の状態の想像図。連星系の一方の星が外層を伴星の重力によってはぎ取られ、黄色超巨星に進化したと考えられる。(c) Kavli IPMU/Aya Tsuboi

画像4。爆発前の星が黄色超巨星の場合(黄線)および青色コンパクト星の場合(青線)の理論計算による光度曲線。そこに、SN2011dhの観測データが水色の点で重ねられている。黄色超巨星と考えた場合のみ理論曲線が観測結果をよく再現するという

このことから、新たに以下の2つの問題が発生した。1つは、爆発した星はどのようにして水素の外層を失ったのか、ということ。そしてもう1つは、このような黄色超巨星はどのようにして爆発できるのか、ということである。

1つ目の問題についての説明としては、強い星風によるものと、連星系の重力による質量移動の2種類のメカニズムが提案された。前者については、十分に強い星風が起こるためには誕生時の星の質量が太陽の25倍以上の大きなものでないとならない。

しかしながら、今回の流体力学モデルでは爆発した星の質量が太陽質量の8倍以上ではあり得ないという結果が得られていた。爆発前に失われた外層の質量を加えても、誕生時の質量は太陽の25倍に届かないため、前者のメカニズムは否定されたのである。

残る後者のメカニズムでは、近接した伴星に超新星となる星の物質が移行するというものだ。このシナリオでは小さな質量の星から外層がはぎ取られることを自然に説明することが可能である。

2つの問題を解決するために、今回の研究では2つの重い星が星の間で物質が移動するほど近い距離の連星を成している場合を想定した星の進化のシミュレーションが行われた。

太陽の16倍と10倍の質量の2つの星(画像5・6)からなり、初期の周期が125日の連星系の進化を計算したところ、黄色超巨星に成長した後に爆発する様子を再現することに成功したのである。

2つの青色星からなる連星系(画像5(左))とその片側の星が進化、外層がはぎ取られて黄色超巨星となった連星系(画像6)の想像図。(c) Kavli IPMU/Aya Tsuboi

また、中心部の質量も流体力学モデルの計算と一致した。さらに、外層に残った水素もIIb型超新星として分類される量に減っていた。これは、赤色巨星に進化して超新星となる単独星の進化過程(画像7・8)とは異なる。

青色星(画像7(左))とこれが進化した赤色超巨星(画像8)の想像図。(c) Kavli IPMU/Aya Tsuboi

連星モデルによると、超新星爆発の起きるときには、伴星は大質量で高温の星に進化していると予測される。表面温度が非常に高いため、伴星はほぼ紫外線領域の光を出していて、可視光領域の明るさにはほとんど寄与しない。そのため、伴星は爆発前には検出できないほど暗い星であったと考えられる。

しかし近い将来、超新星の残骸が飛び散った後には、伴星が青色領域の光学観測によって検出されることが今回の研究結果から予測された。将来の観測でこの星が見つかれば、今回のモデルが正しいことの有力な証拠になるという。

今回の研究成果について、論文の主著者であるKavli IPMUのMelina Bersten特任研究員は、「この結果は、超新星の研究を進める上で、連星系の進化と爆発のメカニズムの関連を追及することが非常に重要であることを示しています。今後の観測で、私たちの予測が検証されることが楽しみです」とコメントしている。