IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子学会)は9月24日、将来の高度道路交通として「自律型自動車」が最も有望であり、2040年には道路通行車両の75%を占めるようになると予測していることを発表した。
IEEEのシニアメンバーでイタリア・パルマ大学のコンピュータ工学教授を務めるアルベルト・ブロッジ(Alberto Broggi)博士は、2010年にイタリアのパルマから中国の上海まで、8000マイルにおよぶ自動運転自動車走行プロジェクトのディレクターを務め、2台の自律型自動車を完走させた実績を持ち、同分野における第1人者として知られている。
そのブロッジ博士は、「どのような形であれ、高度道路交通システムの導入にはその基盤整備が必要になることが多く、このことが普及への最大の障害となっている。自律型自動車の場合、既存の道路ネットワークをそのまま利用できるという利点があり、世界の大半の場所で日常的に道路交通に変化をもたらすことができる」と語る。
日本においても、お台場や首都高速、そのほか複数の地域で高度道路交通システの試験的な導入が行われ、テストなどが行われているが、費用の問題があり、一気に全国の道路にそうした機器を設置するということは難しいのが現状だ。
その点、車の性能が高度化していき、徐々に自律型自動車に置き換わっていく方が容易だろう。現に、衝突防止などの運転支援システムなど、自律制御機能を備えた車がすでに販売されており、これらがさらに高度化して完全自律機能(自動運転)機能を獲得すれば、ガイドシステムを路面や路側帯などに一定間隔ごとに埋め込んだりといった手間と時間のかかるインフラ整備をしなくても(少しはインフラを強化する必要はあるだろうが)、車の方で判断して運転するので、自動運転が実現するというわけだ。
自律型自動車が増加すれば、当然車両交通の在り方も変化してくるわけで、今後28年間で交差点、交通流量、高速道路などを劇的に変化させ、運転免許の在り方さえも変わっていくことになるとしている。
自律型自動車は高度通信センサを通じて操作されるわけだが、走行の安全性と効率性が確保されることで変化する可能性があることの1つが信号の存在だ。
道路を走る車のすべてが自動運転自動車になれば(2040年時点で75%という予測なので、100%はさらに先になるのはいうまでもない)、車両間通信や交通基盤との情報のやり取りが行われることで、信号や一時停止などの道路標識も不要になるかも知れないという(ただし、大規模な地震など、インフラが機能を停止してしまうこともあり得るので、緊急モードの手動運転時の対応として、普段は必要がないにしても、道路標識や信号などは残しておく必要があるかも知れない)。
ブロッジ博士は、「交通を監視し車の流れを制御するセンサやカメラ、レーダーが交差点に設置されれば、衝突事故はなくなり、より効率的な交通が可能になる。車が自動で制御されれば、当然信号機を設置する必要もなくなるでだろう」と述べている。
自律型自動車が増えることで、高速道路にも大幅な変化が起きるという予測だ。自律型と従来型の車両がそれぞれ専用車線を走行することで渋滞が最低限に抑えられ、運転効率を向上させて走行速度を上げることもできる(現在の料金所のETC専用と一般レーンのようなイメージと思われる)。
また、IEEEメンバーでジョージ・ワシントン大学のインテリジェント システム リサーチセンターのディレクターを務めるアジム・エスカンダリアン(Azim Eskandarian)博士は、「高速道路に専用レーンを設けることで車は効率的に流れるようになり、走行中の燃料効率も上がる。自律型自動車が増加することで車の流れが変わるだけでなく、走行速度を上げ、おそらく従来よりも車間距離を縮めながらも、車両はより安全に走行できるようになり、フリーフローなどでは特に、その両方(あるいは自動運転機能)をうまく使い分けて、安全性を向上させることができるようになる」と、述べている。
なお、前述のブロッジ博士は、2040年までに制限速度は間違いなく時速160kmまで上げられると確信しているという。
また自律型自動車によって進展することが予測されているのが、カーシェアリング制度の普及だ。届いた車で目的地に着くと、その車両はすぐに次の利用者が使用する。「現在、自動車は90%以上の時間は駐車場に置かれている。カーシェアリングを利用することで1台の走行を続ける時間が長くなり、車両の運転効率が上がって燃費の向上にもつながる」と、ブロッジ博士はコメント。
またエスカンダリアン博士は、自律型自動車のカーシェアリングを利用することで、年代や能力に関わりなく、あらゆる人が自動車を利用できるようになり、その結果として運転免許さえも必要性がなくなる可能性があると述べている。
「電車やバスに乗るために免許など必要ない。完全に自律化され、まったく人の手を借りる余地がなくなれば、車両は自らを自律的に制御し、車の運転のために特別な要件を求める必要はなくなり、交通手段として自動車を保有する必要もなくなる。ただし車両自体に関して、新たな基準が満たされるよう、より多くの認証制度を設ける必要があることはいうまでもない」としている。
こうしたさまざまなメリットがあるにも関わらず、自律型自動車の普及の最大の障害となっているのが、運転者や同乗者側の受容性の問題だ。アラスカ・アンカレッジ大学のコンピュータシステム工学部の准教授でIEEEメンバーのジェフリー・ミラー(Jeffrey Miller)氏は、「運転者やその同乗者は、まだ車の運転を完全に任せてしまうほど技術を信頼しきれていない」と指摘。
ただし、「自動車メーカー側ではすでに、並列駐車補助システムや自動制御ブレーキ、居眠り運転防止装置など、さまざまな自動機能を取り入れ始めており、自動運転技術が少しずつ受け入れられるようになってはきている。利用範囲が広がることで、今後28年間の内に雪だるま式に自動運転技術が拡大し、2040年には道路交通の主流になっていると考えられる」との期待も語っている。